千野隆司『おれは一万石』を読む
時代小説はあまり買わないのだが,タイトルに痺れて買ってしまったのがこれ,
千野隆司『おれは一万石』(双葉文庫)
である。
前に書いたことがあるが,うちのツマのご先祖は加賀藩主前田利常公に仕えた武士,小幡宮内長次(おばたくないながつぐ)で,禄高は10,950石に達していた(参考:「加賀藩・小幡宮内家の近世」)。なので,「一万石」には過剰に反応する次第である。
さて,内容。
時は天明6(1786)年,老中田沼意次が失脚しそうな不穏な雰囲気の頃。主人公は美濃今尾藩三万石竹腰勝起(たけのこし・かつおき)の次男,正紀(まさのり)17歳である。下総高岡藩井上家への婿入りが決まったのだが,高岡藩は1万石の小藩で,今まさに水害の危機に直面しており,なんか心許ない感じである。高岡藩領内の小浮村を洪水から守るべく,正紀は杭2000本の調達に奔走するのであった――。
尾張徳川家の血を引いているということで,井上家を奉じる藩士たちからの反発を感じたり,領内の農民の苦労を顧みない江戸住まいの藩主一家や家老たちに憤りを感じたり,主人公正紀の心の動きが若武者らしくて良い。
大名の石高については一昨年,「大名の石高はパレートの夢を見るか?」という記事で検討したことがあるのだが,1万石ちょうどの大名は31家もある(寛文印知による)。ちなみに寛文印知によれば,下総高岡藩は11,485.97石だった。
どうでもいい話だが,『おれは一万石』のタイトルでピンと来たのが,堀道広の漫画,『おれは短大出』。これは青林工藝舎の雑誌アックスに連載されているのだが,まだ単行本になっていないのが残念。
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