エミール・クストリッツァ『オン・ザ・ミルキー・ロード』を観てきた
YCAMでエミール・クストリッツァ監督『オン・ザ・ミルキー・ロード』(2016年,セルビア・イギリス・アメリカ)を観てきた。
この話はマジック・リアリズムで描かれたファンタジーだ。貧しい男と姫君の逃避行という典型的な昔話のパターンの。姫君というにはモニカ・ベルッチはトウが立ち,豊満で妖艶すぎるが。あと,男の方(エミール・クストリッツァ監督自身が演じる)も年齢が高すぎるが。
とはいえ,情熱,狂気,残酷さ,ユーモア,生命力,といったものに満ち溢れた魅力的な映画である。森や山や川や湖の景色は美しく,全編を彩るバルカン風音楽は強烈だ。
全体で3つのパートに分かれる映画である。
<前半>
ボスニア内戦を彷彿とさせる激戦の中,前線にミルクを配達する男がいた。名をコスタ(エミール・クストリッツァ)という。肩にハヤブサを載せ,傘を差し,ロバにまたがり,銃弾の飛び交う中,平然と配達を続ける。周囲からは頭のおかしい奴だと見られている。
そんなコスタを好きになっているのが,コスタの配達するミルクを生産している家の娘,ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)である。ミレナにはジャガという兄がいる。凄腕のスナイパーで村の英雄である。ミレナは兄の花嫁探しをしていて,難民キャンプにいたイタリア女(モニカ・ベルッチ)に白羽の矢を立てた。
ミレナの家に迎えられた花嫁(モニカ・ベルッチ)は,ミレナの家に出入りするコスタに魅かれるようになった。コスタはミレナの気持ちを知りながらも花嫁にも魅かれ始める。
そしてある日,停戦が合意され,村に平和が戻ってきた。ミレナの兄,ジャガも帰ってきて,いよいよ結婚式を挙げることになった。これに合わせてミレナもコスタと結構しようとする。ダブル結婚式である。コスタはジャガの花嫁とミレナの間で揺れ動くいていた――。
<後半>
コスタと花嫁(モニカ・ベルッチ)とミレナの三角関係は突如終焉を迎える。
謎の特殊部隊が村に現れ,家々を焼き払い,村人を皆殺しにしてしまったからである。
実は,かつて,花嫁に恋した多国籍軍の英国軍の将軍がいた。花嫁に恋焦がれるあまり,妻を殺してしまい,投獄されたため,今では花嫁を恨んでいる。村を焼き払った特殊部隊は,この将軍が送り込んだもので,「生死にかかわらず,女(モニカ・ベルッチ)を連れて来い」と命じられている。
辛うじて虐殺を逃れたコスタと花嫁は逃避行を始める――。
<後日譚>
逃避行から15年後。
コスタは修道僧となっていた。毎日袋いっぱいの砕石を背負い,野を越え山を越え,どこかに運んでいく。その目的とは??
本作はとにかく,動物が良く出てくる映画である。ハヤブサもロバもアヒルもヘビもクマも,俳優陣に負けず劣らず芸達者で表情豊かである。ハヤブサとヘビは,とくに重要な役割を担っているので,目が離せない。
イタリアの至宝であるモニカ・ベルッチもさりながら,エレナを演じるスロボダ・ミチャロヴィッチも魅力的な女優である。酒と歌と踊りが好きで,度胸もある女を演じている。年が一回り以上違うが,モニカ・ベルッチと並んでも遜色はない。この二人に愛されるコスタはとんだ幸せ者である。まあ,物語全体は悲劇の方向に流れていくので,不幸とも言えるが。
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