千田稔『伊勢神宮―東アジアのアマテラス』を読む
インドネシア出張の帰路,千田稔『伊勢神宮―東アジアのアマテラス』を読んでいた。
本ブログではこれまでにアマテラスにフォーカスした本として
の2書を紹介してきた。
前者・筑紫申真版『アマテラスの誕生』は「アマテラスはもともと男神(蛇神)だったのであり,太陽神そのもの(アマテル)→太陽神をまつる女(オオヒルメノムチ)→天皇家の祖先神(アマテラス)と変転していったのだ」という「アマテラスの神格三転説」を唱えており,非常に刺激的な本だった。地方神アマテラスが皇祖神に昇格する過程を「壬申の乱における神助」説と「持統女帝=アマテラスのモデル」説とを用いて明確に提示しているところが特徴的である。
後者・溝口睦子版『アマテラスの誕生』は「タカミムスヒ=太陽神」説や,天智・天武両朝における皇祖神の交代説,すなわち「外来神タカミムスヒから土着神アマテラスへの交代」説を唱えておりこれも刺激的な内容だった。しかしながら天武天皇がアマテラスを重視した理由についてはあいまいな記述で,この点では筑紫申真版に及ばない。
さて,今回読んだ,千田稔『伊勢神宮―東アジアのアマテラス』は,アマテラスの原像を探ることから始まり,古代・中世・近世・近現代におけるアマテラスおよび伊勢神宮の位置づけの変遷について論じている。
上述の筑紫・溝口両氏が追ってきた「アマテラスの誕生」過程を扱っているのは本書第1章「アマテラスの旅路」と第2章「中国思想と神宮」である。
第1章「アマテラスの旅路」では,アマテラスの祖型がアマテル系神社に祀られている海洋民の神・ホアカリノミコトである可能性,そしてホアカリノミコトの起源は中国の江南の地にありそうだという可能性などが述べられている。
また,第2章「中国思想と神宮」では,古代の都と伊勢神宮との位置関係に道教の神仙思想の影響が見られること,アマテラスと西王母は「織女」というキーワードで結び付くことなど,アマテラスおよび伊勢神宮に道教の強い影響が見られることが述べられている。
これらの章で強調されているのは,アマテラスならびに伊勢神宮は東アジア世界で孤立した存在ではないということである。日本神話の源流を考えるときに,よく取り上げられるのが,朝鮮半島を経由した北方系神話,黒潮に乗って島伝いに到来した南方系神話であるが,中国大陸からの直接の影響も忘れてはならない。
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