読書の身体性・書籍の物理性:西牟田靖『本で床は抜けるのか』
西牟田靖『本で床は抜けるのか』は蔵書と住まい,蔵書と家族の関係をつづったルポルタージュであるとともに,読書の身体性,書籍の物理性をつよく意識させる本でもある。
以前,松岡正剛の新書本を2冊一気読みしたときに,読書の身体性,書籍の物理性について触れた。(参照:「セイゴオ読書術2冊一気読み:『本の読み方(1)―皮膚とオブジェ』と『多読術』」,2013年6月10日)
セイゴオ先生が語るのは,本の内容把握だけでなく,読書中の身体感覚や感情の動きも読書体験として重要である,ということである。こうした読書体験の多重構造は,いわば,書籍の物理性がもたらすポジティブな効果だろう。
本書『本で床は抜けるのか』では,書籍の物理性のポジティブな効果も語られつつ,ネガティブな効果も語られる。
「物体としての本の存在感は読者に読む醍醐味を与える。本を手に持ち,ページをめくりながら,目を通していくからこそ読書という体験は豊かになる。だが,その物体性ゆえに,床が抜けそうになったり,居住空間が圧迫されたりもする。さらに,部屋に閉じ込められたり,果ては凶器となり怪我をしたりとあらゆる厄介事を抱え込んでしまうのだ。」(本書80ページ)
著者は書籍の物理性がもたらす,ポジティブ効果とネガティブ効果との間で揺れ動きながら,家族を喪い,その一方で,自分だけの部屋を手に入れる。いわば一つの暫定解にたどり着くわけである。
著者と同じく,書庫を建設するほどの財力を持たない蔵書家たちは,どうすればよいのか?
蔵書の一部を電子化し,物理的な書籍と電子的な書籍の割合を調整する,という折衷案でやり過ごしていくしかないのだろう,と本書を読みながら思った。
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