『ユトク伝 チベット医学の教えと伝説』を読む
先日,ソナム・ギェルツェン著・今枝由郎監訳『チベット仏教王伝』(岩波文庫)を読んだわけだが,その余勢を駆って,中川和也訳『ユトク伝 チベット医学の教えと伝説』(岩波文庫)を読んでいる。実はこの本,長らく拙宅の本棚で眠ったままになっていたものである。
本書の主人公,ユトク・ニンマ・ユンテン・グンポは,チベット王ティソン・デツェン(742~797)に仕え,チベット医学の基礎を築いた人物である。
ティソン・デツェン王は『チベット仏教王伝』の主人公,ソンツェン・ガンポ王から5代後のチベット王であり,安史の乱に乗じて唐の首都・長安を占領し,チベットの支配領域を史上最大のものとした。サムイェー寺の大伽藍を建立し,仏教を国教に制定した。彼の治世下でチベットは黄金時代を迎えた。
『チベット仏教王伝』と同様に,本書でも,主人公が登場するまでにはかなりの紙数を費している。チベットの伝記では主人公の系譜を記すことが重要なのである。
このため,本書の四分の一は,ユトクの祖先であり,美貌の医薬女神たるケーペー・イトマの事跡に割かれている。ちなみに,登場時のイトマは居酒屋の娘である。それが医薬女神になってしまうのだから面白い。
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