(続)『チベット仏教王伝』を読む
怠け心が起きたら,命の無常について瞑想せよ。 執着にとらわれたら,それは夢まぼろしであると瞑想せよ。
(『チベット仏教王伝』298頁)
ソナム・ギェルツェン著・今枝由郎監訳『チベット仏教王伝』(岩波文庫)のクライマックスは,ソンツェン・ガンポ王が孫のマンソン・マンツェンに仏教の神髄を説く,第17章「ソンツェン・ガンポ王と妃たちの最後」だと思う。
だが,面白いところと言えば,ネパール妃ティツンと中国妃文成公主の輿入れを描いた12~14章だろう。
ネパール王と中国皇帝はそれぞれ娘をソンツェン・ガンポ王の妃として送り出すことを渋るのだが,これをソンツェン・ガンポ王とガル大臣とがうまく説き伏せてしまうあたり,一種の頓智ばなしとなっていて面白い。
チベットへの輿入れ後,ティツンと文成公主との間でちょっとした口論があったりするのも面白い。どちらも観音菩薩の涙から生じた女尊の化身だというのに自覚はないのかと。
この二人については「中国妃とネパール妃」という独立物語があるそうだが,未読。
ティツンはネパール王アンシュ・ヴァルマンの娘とされているが,実在性については疑問があるらしい。そういえば,ティツンの輿入れの話は文成公主の輿入れの話に比べると三分の一程度の長さしかない。
文成公主は中国側資料『旧唐書』・『資治通鑑』にも記録があり,実在の人物であるが,太宗(李世民)の娘ではないらしい。毛利志生子著『風の王国』では太宗の娘ではなく,姪という設定である。
チベット(吐蕃)に輿入れした中国妃は文成公主だけではない。後に中宗の養女・李奴奴がティデ・ツクツェン王の妃・金城公主となっている。
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