爆音上映で庵野秀明監督『シン・ゴジラ』を見てきた
山口の夏,爆音の夏。
既に前の記事で述べたように,「カナザワ映画祭2017 at YCAM 爆音上映」に出かけて,塚本晋也監督『野火』と庵野秀明監督『シン・ゴジラ』を鑑賞した。
『野火』に続いて『シン・ゴジラ』の話。
何度も繰り返すが,boidの皆さんが褒め称える,YCAMの音響システム。ゴジラの咆哮,地響き,自衛隊の砲撃,ニュース音声,伊福部昭の音楽,全てが全身に響き渡る。耳ではなく体で聴くという体験はYCAMならではのもの。
内容についてあれこれ言うのは結構難しい。すでに公開から年月が経っており,議論しつくされているような気がする。とはいえ,ちょっとだけコメントしてみる。
以前,浅田彰が「2017年フランス大統領選挙の後で」(REALKYOTO)という記事の(注3)で『シン・ゴジラ』についてこういうことを述べていた:
- 小池百合子をモデルとした防衛大臣(余貴美子)を描いているのは慧眼としても,米国特使カヨコ・アン・パタースン役の石原さとみの英語力はいかがなものか,政治的寓話(アレゴリー)としてはもっと良い脚本を用意するべき
- 東京駅の廃墟で硬直したゴジラは,福島第一という原子力災害の寓話としては効果的
- テクノクラート集団が非常事態の収集に成功するという結末は「維新」のイデオロギーそのものなので要注意
いちいちごもっともな気がするのだが,初代ゴジラを振り返ると,見方が変わる。
庵野監督には難しい政治的意図はなく,ただ,初代ゴジラを忠実になぞって現代版のゴジラを作り上げただけなのだ。つまりオマージュ。20世紀の志村喬は21世紀の塚本晋也で置き換えられた。
それどころか,もっと無邪気に,カッコいいメカの映像をどんどん繰り出したかっただけで,政府・自衛隊の描写はメカを出動させるための単なる理由づけに過ぎないのかもしれない。無人在来線爆弾 (E233系・E231系電車流用) とか,血液凝固剤プラントとか,コンクリートポンプ車隊とか,つまりは「はたらくくるま」の劇場版というとらえ方も可能だ。
もっと穿った見方をすると,字幕を出したかっただけ,という気もする。ヱヴァでもそうだったが,庵野監督のタイポグラフィーへのこだわりは凄い。平成明朝体W9(?)で「新幹線700系電車(無人運転)」とかバーンと字幕を付けると,たちまち特撮になる。ああそうか,『シン・ゴジラ』は難しく考えずに,庵野監督の特撮愛が全面的に出た娯楽作として観ればよいのか。
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