エドワード・ヤン監督『クーリンチェ少年殺人事件』を見てきた
YCAMでエドワード・ヤン(楊徳昌)監督『クーリンチェ少年殺人事件』が上映されているので,観てきた。
実際に台北で起こった,少年による殺人事件をモチーフにした映画である。
1991年の作品の4Kレストア・デジタルリマスター版。英語のタイトルは"A Brighter Summer Day"。劇中に流れるプレスリーの曲"Are you lonesome tonight?"の一節から採られた。
伝説の傑作との噂にたがわぬ映画で,3時間56分を費やして観た価値があった。
舞台は,1960年代初頭の台北。喧嘩に明け暮れる不良グループ,少年の淡い恋心,不器用な外省人一家。社会には閉塞感と焦燥感が蔓延,若者たちはこれに鋭敏に反応し,暴力や一時的な享楽に耽る。小津と『ゴッド・ファーザー』の間に位置する映画だという「ヤヌス・フィルムズ」の評価はまさにその通り。
ストーリーをものすごく簡単に述べると,小四(シャオスー)という少年が,可憐で薄幸な少女・小明(シャオミン)に恋したところ,ファム・ファタルでした,という話(もちろんそんな簡単な話ではなく,既に述べたように,当時の世相,若者たちや家族の生きざまが丹念に描かれている。だから4時間近く必要なのだ)。小明に係った男性はみな,エライ目に遭う。なんか『吉祥天女』の叶小夜子を思い出したぞ。
男たちがエライ目に遭うのは,小明のせいではない。男たちが小明を善導しようなどと思いあがるからである。
"你怎麼就是不明白? (どうしてわからないの?)
這個世界是不會為你而改變的, (あなたはこの世界を変えることはできない)
我就好像這個世界, (私はこの世界とおなじ)
是不會為你而改變的! (変えることなんかできないわ)"
(字幕では「私を変える気? この社会と同じ,何も変わらないのよ」)
という小明の諦観に基づく発言は,小四のみならず若者たちの希望を完全に打ち砕く。
台湾の若者たちが希望を持てるようになるには,1990年代の李登輝総統による民主化を待たなくてはならない。
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