意識は肉体の中にあるのか外にあるのか
魂というべきか,精神というべきか,どのように呼んだらよいか議論があると思うが,とりあえずここでは意識と呼んでおこう。
意識がこの肉体の中の神経ネットワーク上にあるのか,それとも肉体の外にあるのか,地味だが長い論争が続いている。
先日のトカナの記事:
「【ガチ】“魂”は天国に行かないことが判明! 英化学者『意識はこの世に留まり,存在し続ける』」(2017年7月17日)
で紹介されているのは「外」派の意見である。「外」派の考えはこれまでにもロジャー・ペンローズやダグラス・ホスフタッターによって唱えられてきた。
「外」派の考え方を,ものすごくざっくりと述べると,次のようになる:
- 神経ネットワークを含め,肉体というのはテレビやラジオのような受信機
- 受信機が時空間に漂う情報を拾うことによって意識が顕在化する
要するに,「人体テレビ仮説」。
「外」派の中で最近特に注目を浴びているのがハメロフの「微小管(びしょうかん: microtubule)量子コンピュータ」説である。
微小管というのは細胞骨格の一つで,チューブリンというタンパク質でできた微小な管である。
2015年1月に出たワイアード日本版Vol.14からこの説についての記述を引用しよう:
「ハメロフがこの生体構造に目をつけた理由は,麻酔がどのように意識だけを消失させるか明らかにするヒントが微小管にあったからだ。『麻酔薬の働きはとても選択的なんだ。意識をブロックしても,脳のほかの活動は正常に機能する』。
これまでの研究によると,ニューロンの樹状突起の微小管にあるチューブリンの隙間に麻酔薬の分子が嵌まり込んで,意識に必要だと思われる双極子的な振動を分散させていることが示唆されている。となると,微小管の働きは意識の発生に重要な役割を果たしているはずだとハメロフは考えた。
『ゾウリムシのような単細胞生物でも,学習したり,餌を探したり,天敵を避けたり,生殖して子孫を残したりするんだ。ニューロンもシナプスもないのに,どうしてこんな賢い行動をすると思う?ゾウリムシの繊毛は微小管でできている。これがコンピューターのように情報のプロセスを処理しているんだよ』」
("Death in a quantum space ハメロフ博士の世界一ぶっとんだ死の話 意識と『量子もつれ』と不滅の魂" by Sanae Akiyama, ワイアード日本版Vol.14,2015年1月, pp.28 -29)
ハメロフはこうも言う:
「意識は,物質でできた肉体から離れてそのまま宇宙に留まるんだ。時間の概念がない,夢に出てくる無意識にも似た量子の世界だよ。ひょっとすると『量子もつれ』によって塊になった量子情報が『魂』と呼ばれるものなのかもしれないな」
("Death in a quantum space ハメロフ博士の世界一ぶっとんだ死の話 意識と『量子もつれ』と不滅の魂" by Sanae Akiyama, ワイアード日本版Vol.14,2015年1月, p.31)
もちろん,「外」派に対する「内」派の主張もある。神経ネットワーク上に意識が存在するという考え方である。
この神経ネットワークとは,我々の頭蓋骨の中にある炭素由来の生物学的神経ネットワークだけに限られるものではない。
以前,ニック・ボストロムの「シミュレーション仮説」を「われわれはシミュレーションの中に生きている/われわれはオメガポイントに達し得ない」という記事で紹介したが,そのとき,意識はシリコン製のCPUの中にも宿る可能性があるという「Substrate-indepenence (基盤独立性)の仮説」に触れた。この仮説は,とにかく神経系と同程度の複雑な情報処理の構造があれば,そこに意識が存在する,という考え方である。AIもいずれは意識を持つかもしれない。というか既に持っているかも。
複雑で動的なシステムは自然の計算機と見なすことができる。そうすれば,地球だって(ガイア仮説),マグマの対流(スティーヴン・バクスター『ジーリー・クロニクル』の「クワックス」)だって意識を持つ可能性がある。あらゆるところに知的な存在を認め得る「内」派は「内」派で魅力的な考え方だ。とは言え,システムが壊れた時,意識は消え,いわゆる死を迎える。
さて,小生がどちらに傾いているかというと,時空間に意識が漂っていると考える「外」派かなぁ。
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