この3冊:1969年
松岡正剛率いる編集工学研究所が「三冊屋」という企画をずっと前からやっている。本を三冊組み合わせることで新たな読書体験,新たなストーリー,新たな世界観が生まれるというわけである。
小生も真似してやってみようと思う。最近出た本を中心として。テーマは「1969年」
今年の3月,岩波書店からこんな本が出た:
安彦良和×斉藤光政『原点 THE ORIGIN戦争を描く,人間を描く』(岩波書店,2017年)
安彦良和が『ガンダム』,『アリオン』,『ナムジ』,『虹色のトロツキー』,『王道の狗』等々,SF,古代史,近現代史作品で描きたかったことは何だったのか。東奥日報記者の斉藤光政によるルポルタージュと安彦良和による自叙伝の組み合わせによって,この疑問に迫るというのが本書の主題。
安彦良和の軌跡をたどっていくと,弘前大学での闘争が思想形成に重要な影響を与えていることがわかる。
斉藤光政による前書きにはこの本が誕生するきっかけが紹介されている。2014年の暮れ,安彦良和のバイオグラフィーを書きたいという斉藤の申し出に対して安彦良和はこう答えた:
「二,三年前から弘前大学時代の仲間と話していることがあります。『あの時代』を総括しておかないか,ということです……」(本書,viiiページ)
今,あの時代についてまとめておかないと,という一種の焦燥感も感じられる。
安彦良和は弘大闘争の中心人物だったわけだが(そのあたりのことは山本直樹『レッド Red』にも描かれている),全国に吹き荒れる学園紛争の嵐の中心となっていたのが,東大闘争である。その中心人物・山本義隆が著したのが,『私の1960年代』(金曜日,2015年)である。
山本義隆はこれまでに教育者・科学史家として予備校の教科書や科学史の大著を上梓してきた。しかし,1960年代の東大闘争については沈黙を守ってきた。その山本義隆が,ついに口を開いた。
「はじめに」で山本義隆はこう語る:
「回顧談のようなものを公にする気にはこれまでなかなかなれなかったのですが,1960年の安保闘争から,ベトナム反戦闘争をまたいで,1970年の安保闘争まで,そして1962年の大学管理法闘争から1968・69年の東大闘争までの,その10年間の一人の学生の歩みと経験を活字にすることは,今の時代にあって,それなりに意味があるのではないかと,自分に言い聞かせて,承知しました。こうして出来上がったのが本書です。」
この時代だからこそ語りたい,という気持ちは先の『原点 THE ORIGIN』と同じである。
最後はこれ。大学紛争の陰で忘れられかけている,「高校紛争」をまとめた一冊:
小林哲夫『高校紛争 1969-1970』(中公新書)
著者は教育ジャーナリスト。当時は高校も燃えていた。この本もまた,今(2012年に出版された本だが)まとめておかないと,関係者,とくに当時の高校の教職員が鬼籍に入ってしまうという焦燥感に駆られて取材が行われたという背景がある。
なお,当時,高校生だった押井守や坂本龍一や村上龍らの証言もチラッと出ます。
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