ジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』を見てきた
YCAMでジャンフランコ・ロージ監督『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』を見てきた。
イタリア最南端の小さな島,ランペドゥーサ。 ヨーロッパというよりももうほとんどアフリカと言ってもよいところに位置している。
この島に住む人々の生活はとても穏やかに見える。パチンコ作りに夢中になっているサムエレ少年。漁師たち。家事にいそしむ老女。ラジオから流れる懐メロ。
BS日テレの人気番組「小さな村の物語 イタリア」を彷彿とさせる光景の陰で,この島は別の一面を見せる。
この島はアフリカや中東からの難民が海を越えて押し寄せる玄関口なのである。その数,20年間で40万人。そして1万5千人が命を落とした。
この映画では,何かのメッセージが声高に叫ばれることはない。サムエレ少年と島民たちの日常を描いたパートと,イタリア沿岸警備隊による難民救出作業を描いたパートとが交互に淡々と映し出されているのみである。
島民の中で唯一難民と関わりを持つのは島でただ一人の医師である。医師はサムエレ少年の診察をする一方で,難民たちの死に向き合ってきた。
この医師の語りと,あとはラジオのニュースだけが島民たちの生活と難民たちの苦難とが交錯するわずかなポイントである。
それ以外には島民たちの生活と難民たちの苦難とが直接かかわることはない。サムエレ少年と難民とが顔を合わせることはない。
だが,そのことがかえって事態の深刻さを浮き彫りにする。
Newsweek日本版で大場正明が上手いことまとめているので引用する:
この映画のなかで,少年と難民が接触することはないが,少年の成長と難民の現実は無関係ではない。以前より周りが見えるようになった彼は,やがてわけもなく緊張を覚えるようになり,医師から不安症気味だと診断される。この少年を悩ます不安は,移民・難民問題を契機に世界が分断されつつある時代を生きる私たちが抱えている不安でもある。
「イタリア最南端の島で起きていること 映画『海は燃えている』 大場正明 映画の境界線」
本作の原題は"FUOCCO A MARE"で,「海の炎」の意。
第2次世界大戦時にイタリアの船が連合軍に爆撃され,深夜の海に真っ赤な炎が上がり,人々を不安に陥れたという逸話から生まれた地元の伝統曲のタイトルだそうだ。
21世紀になり,今また海が燃えつつあるということだ。
ジャンフランコ・ロージ監督は1964年,エリトリア国生まれ。13歳の時,エリトリア独立戦争中にイタリアへ避難ということで,監督自身難民であるといえる。
ランペドゥーサ島に押し寄せる難民については,このハフィントンポストの記事を参照されたし:
「イタリア・ランペドゥーサ島沖の移民船転覆 なぜ彼らは危険な航海に出るのか」(ハフィントンポスト,2015年4月22日)
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