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2017.05.08

『人生フルーツ』を観てきた

YCAMで二本、映画を観てきた。そのうちの一つが『人生フルーツ』(伏原健之監督、2016年、東海テレビ放送)。建築家の津端修一さん(90歳)・英子さん(87歳)の日常を記録した映画である。

会場はほぼ満員。昨年、ここYCAMで『ふたりの桃源郷』(佐々木聰監督、2016年、KRY山口放送)を上映したときの盛況ぶりを思い出させる。そういえば老夫婦を取り上げたことや、もともと地方テレビ局のドキュメンタリー番組だったことなど共通点は多い。

さて、津端さん夫婦が住む家の敷地面積は300坪。修一さんが尊敬する建築家、アントニン・レーモンドの自宅を再現した木造住宅が立っている。住宅の周りには雑木や果樹を植え、さらにキッチンガーデンを営んでいる。70種の野菜と50種の果実がこの家で育てられている。これらの収穫物は英子さんの手で料理や保存食品へと姿を変え、津端さん夫婦や親族・知人の胃袋へと収まる。いわゆるスローライフ。だが二人はテキパキと働く。毎日のように畑を耕し、水を撒き、草むしりや剪定をし、樹木や畑に看板や札を付け、コンポストを作り、果実や野菜を収穫する。行動はスローじゃない。修一さんは自転車に乗るわ、餅つきはするわ、90とは思えない身のこなし。かつての海軍や東大ヨット部で頑強な体が作られたのだろう。


◆   ◆   ◆


津端家のある高蔵寺ニュータウンは伊勢湾台風を契機として開発された団地である。日本住宅公団に勤めていた修一さんは、そのマスタープランを担当した。自然の地形を生かし、森と共生することを目指した修一さんの都市計画案は、経済効率優先の風潮の中で大きく変更され、画一的で無機質な団地が生まれてしまった。

団地を設計する建築家の多くは自ら設計した団地に住むことはあまりないという。だが、修一さんは高蔵寺ニュータウンに土地を購入した。そして敷地に雑木林を作り、上述したようなスローライフを始めた。

津端家の裏には団地を造成した際に禿山となった小さな山があった。修一さんは家族を巻き込み、住民の協力を得て、植樹を行い、この山をどんぐりの山に変えた。

修一さんは、一度は葬られた自分の理想の団地案を、年月をかけて自宅と裏山とで実現してしまったのである。愚公山を移す、ではないけどすごい。


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ここまで修一さん中心で文章を書いてきたが、修一さんが道を貫けたのは英子さんのサポートがあってのこと。それぞれ勝手なことをしているようで細やかな気遣いが垣間見られる二人の距離感が絶妙である。

二人が素敵なスローライフを実現できたのは、今触れたような絶妙な距離感も一因だが、忘れてはならないのが、二人とも元気だということ。高齢にもかかわらず強健な体があってのこの暮らしぶりである。さらに言えば、この健康を支えている食に対する貪欲さも重要。家で採れる食材の豊富さにも驚くが、月に一度、英子さんが名古屋市内で調達してくる野菜や魚などの量と質にも驚く。

この映画のナレーターは樹木希林。ナレーションの中で出てくる「コツコツ、ゆっくり時をためる」という言葉が非常に良い。時がたまった成果がフルーツなのである。fruitというのは本来、成果物という意味ですからね。

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