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2017.05.08

オタール・イオセリアーニ監督の『皆さま,ごきげんよう』も観てきた

YCAMで観てきた映画の二本目。

オタール・イオセリアーニ監督の『皆さま,ごきげんよう』(2015年,仏&ジョージア)である。

ポスターとかチラシを見て,ほのぼのとした物語を想像して鑑賞するとえらい目に合う。

とくに,『人生フルーツ』を見て深く感動した後だと,混乱する。

そもそもフランス映画だという時点で気を付けないといけなかった。

最初に短く,フランス革命の一場面,そして少しだけ近代の戦場が描かれ,ようやく本編ともいうべき,現代のパリの人々のドラマが描かれる。この3つの時代の繋がりに拘泥していると,話の展開についていけなくなるので深く考えないこと。

現代パリ編に絞って話を進めよう。

武器の密売人でもあるアパートの管理人と骸骨のコレクションをしている人類学者。この二人の友情が主軸なのだが,

  • ローラースケートを履いてひったくりを繰り返す姉妹,
  • この姉妹の仲間でバイオリニストに恋するイケてない男,
  • この男に付きまとわれるバイオリニストの父である警察署長,
  • 警察署長に買われたことがある女性,
  • その女性の父で,古城に住んでいるが税金を払えず困窮している男爵,
  • 男爵の孫だろうと思うが,アパート管理人のところで宿題を見てもらっている姉妹,
  • その他,街や古城のがれきを集めて家を建てている男性,
  • アパート管理人と人類学者のガールフレンドだった資産家の老女,
  • 人類学者の隣に住む金属加工業者,
  • その金属加工業者の恋人で通称「ガミガミ女」と呼ばれる若い女性,

等々,一筋縄ではいかぬ面々が小さな事件を引き起こしながらストーリーが進んでいく。

ディテールが大事で,あちこちに仕掛けが施されていて,気が抜けない。

たとえばこんなことがある。アパート管理人が壁の前を歩いていると,いつの間にか壁に隠し扉が出現する。この扉をくぐると,アパート管理人の前に鳥たちが憩う謎の庭園と謎の女性が現れる。その後も2度ほど隠し扉が出現するのだが,最後にアパート管理人が中に入った時には,謎の庭園は荒れ果て,女性も消え去っていた。いったい何だったのか。

他にも例えば,こんなことがある。冒頭のフランス革命時,とある貴族がギロチンに懸けられるのだが,この貴族はアパート管理人と瓜二つ。切られた首はとある女性(あとで気づくのだが「ガミガミ女」と瓜二つ)に拾われる。そしてその首は頭蓋骨となって,女性の子孫である「ガミガミ女」に伝えられることとなる。その後,「ガミガミ女」の彼氏・金属加工業者が人類学者に頭蓋骨を進呈。人類学者が頭蓋骨に肉付けして復顔すると,アパート管理人の頭部となる。このイメージの連鎖はいったい?

この映画はこの映画に応じた受容体(レセプター)を持っている人でないと鑑賞できない。観客を選ぶ映画。万人受けではない。

映画を見た後でこの映画に関する過去の記事を読んだら,イオセリアーニ監督はこんなことを言っていた:

「(自身の作品は)大人として理性を持つ人に向けて作っている」

「ハリウッド映画などの対象は10代から20代半ばです。皆いつも同じような、口当たりの良い作品ばかりを見て育ち、紋切り型に慣れてしまっている」

(映画.com,2016年11月7日記事「名匠O・イオセリアーニが来日 『大人として理性を持つ人に向けて映画を作っている』」より)

この記事の中で,イオセリアーニ監督は松尾芭蕉についても触れていた。松尾芭蕉は俳句で知られているが,発句(単体の俳句)より俳諧(連句)を好んだ。連句というのはイメージの連鎖を楽しむものである。そういえば,この映画,イメージの連鎖だらけである。そうか,この映画は連句なのか。そう思えば納得。


◆   ◆   ◆


原題"Chant D'hiver"は"Winter song"という意味。「皆さま,ごきげんよう」というのは相当な意訳。

現代パリ編の冒頭とエンディングで犬たちが横断歩道を渡る場面が繰り返されるが,これはジャック・タチ『ぼくの伯父さん』(1958年)へのオマージュか?

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