石母田正『日本の古代国家』を読む
年度が替わって,また忙しくなってきたというのに,こんな分厚い本を読み始めている。
著者は石母田 正(いしもだ・しょう)という,日本古代史・中世史の巨人。唯物史観に基づく著書が多数ある。
唯物史観というと,前世紀の遺物みたいな感じであるが,今読んでみるとかえって新しい感じがする。
この本の中で著者が国家成立の要因として重視するのが対外関係である。そして,キーワードとして「交通」というマルクスらしい概念が登場する。
「ここにいう『交通』とは,経済的側面では,商品交換や流通や商業および生産技術の交流であり,政治的領域では戦争や外交をふくむ対外諸関係であり,精神的領域においては文字の使用から法の継受にいたる多様な交流である」(p.28)
と規定している。
ある共同体の中では,外部との「交通」が無い状態でも,支配層と被支配層のような階級分化はある程度進行する。例えば卑弥呼と下戸,つまりシャーマンと一般人という程度の階級分化は起こる。
しかし,階級分化をより推し進め,国家と呼べるほどの権力機構を成立させるのは「交通」であると著者は述べる。
古代日本の支配層は中国大陸や朝鮮半島との交通を掌握することにより,漢字と統治技術を独占した。
漢字と統治技術を独占する支配層と,文字を持たない被支配層の間には歴然たる差が生じ,知的労働と肉体労働という社会的分業が成立する。
支配層による知的労働の独占を基盤とするのが,律令制国家という古代国家の形だというわけである。
まあ,いつの時代でも,知識とスキルは権力の源泉だったりするわけである。当たり前と言えば当たり前か。
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