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2017.03.06

(続)35mmフィルムでアニメーションを―『マイマイ新子と千年の魔法』

YCAMで35mmフィルムでアニメーションを上映する企画があり,この日曜日に2本の映画を見てきたことは既に述べた。

2本見たうちの2本目は,これもいま乗りに乗っている片渕須直監督の2009年の作品,『マイマイ新子と千年の魔法』。

ちなみに「マイマイ」とはつむじのこと。

お気づきだろうと思うが,先の記事で取り上げた新海誠監督は『君の名は。』によって,片渕須直監督は『この世界の片隅に』によって,昨年の邦画界において耳目を集めたわけである(あと庵野監督の『シン・ゴジラ』)。(狙ったんだろうけど)おかげさまで,YCAMのシアターは久々の満員御礼状態。こうしたアニメーションの興隆に,巨匠宮崎も引退宣言を撤回するわけである。

この映画,高樹のぶ子の「マイマイ新子」が原作。原作者が生まれ育った昭和30年代の防府が舞台となっている。

想像力豊かで行動的な小学生・青木新子と転校生・島津貴伊子の友情を軸に少年少女の成長を描く。

楽しいことばかりではない,この話の中では,親しい人の別離や死も描かれる。いつの時代でも,小学生には小学生なりの喜びや悲しみや葛藤があり,日常は発見や驚異に満ち溢れているのである。

このアニメーション映画の特徴は,ロケ地取材がしっかりとしていて,防府市国衙付近の風景が美しく描かれていることである(参照:山口県フィルム・コミッション「マイマイ新子と千年の魔法」)。新子や貴伊子の想像の中で昭和30年代と1000年前の防府の風景が二重写しになるのが面白い。


『秒速5センチメートル』と『マイマイ新子と千年の魔法』とを立て続けに見たことを踏まえて,「アニメーションにしかできないこと」について考えているのだが,それは,機械的ないし物理的に風景をリアルに描き出すのではなく,心象風景をリアルに描き出すことができる,ということではなかろうかと仮説提示しておく。

今,心象風景といったが,廣松渉を引くまでもなく,人間というのは風景をそのまま見ているのではく,気持ちを付加して風景を見ているということを言いたい。鏡で見る自分と写真に写った自分とが違うというのはよく知られた現象である。

先ほど「風景が美しく描かれている」と書いたが,美しく感じられる物事(モノや動き,表情)を抽出し,美しい色調に調整して,心象風景にマッチした映像を提示するという作為があるわけである。そういう作為こそが,アニメーションにおけるリアルさの追求なのではなかろうか? そういうのは従来の映画でもやっているし,CGを利用した映画の場合にはさらに重視されているといえるわけだが,アニメーションにとっては,より本質的な部分ではないかと思う。そういう意味では色彩設計はアニメーションの命だろう。

この映画,マッドハウス制作ながら,色彩設計はジブリ風に見える。監督が『名探偵ホームズ』や『魔女の宅急便』で演出補を務めていたからだろうか? しかし,夜になって山越しに銀河が美しく輝いているのが見えるあたり,新海監督作品と共通の美意識を感じる。いまのアニメーションの風景描写の特徴と言えようか。

登場人物たちの山口弁(吉佐方言?)も味わいがあってええですいね。最後には貴伊子も山口弁に染まるし。

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