ようやく『ゴーメンガースト』読了。ついに第3作『タイタス・アローン』へ
マーヴィン・ピークの「ゴーメンガースト」三部作。
これは,巨大な城館,ゴーメンガースト城に住むグローン伯爵一族と使用人,そして城外の住人たちが繰り広げる愛憎・陰謀劇である。
ファンタジーに分類される作品群だが,龍や魔法やスーパーナチュラルな現象なぞ登場しない。挿絵作家でもあるマーヴィン・ピークによる緻密な描写が続く,リアリティ重視の巨編である。
ファンタジーなのにリアルという矛盾。描写は細かすぎて滑稽さすら孕んでいる。
第1作『タイタス・グローン』は六百数十ページもの大著だったが,第2作『ゴーメンガースト』もまた同じぐらいの分量だった。
この第2作をひと月近く長々と読み続けてきたが,昨日ようやく読み終えた。
読むのに時間がかかった理由として,ピークによる詳細で長々として隠喩や暗喩のオンパレードの描写が読みづらかったこと,そして,『ゴーメンガースト』の半ば,第36章まで話がなかなか盛り上がらなかったということが挙げられる。
だが,それまで緻密な計算と話術の巧みさによって人々を操り,陰謀によってゴーメンガースト城で出世の道を歩んできたダークヒーロー・スティアパイクが,第37章に至り,前伯爵の双子の姉たちに殺害されかけたところから話の流れが大きく変化し,物語は盛り上がっていく。
スティアパイクは書庫長バーケンティンを焼殺し,前伯爵の双子の姉たちを餓死に至らしめ,若き伯爵タイタスの姉,フューシャを篭絡する。
しかし,スティアパイクの犯行が積み重なるにつれ,前伯爵の従者フレイ氏,プルーンスクワラー医師,伯爵妃(正確には前伯爵妃。タイタスの母),そしてタイタスらは陰謀に気づき始める。
そして,双子の遺体の発見とフレイ氏の殺害とをきっかけとして,ついにスティアパイク狩りが始まる。
数々の儀式に彩られたゴーメンガースト城の重厚な伝統に反抗するという点では,スティアパイクとタイタスは同じ立場にいる。
だが,スティアパイクは城の複雑な儀礼を逆手にとって城の支配を目指していたのに対し,タイタスはひたすら城外の世界にあこがれ,ついに城を出て行ってしまうという点で両者の方向性は大きく異なる。
城の正統な継承者でありながら,城外の世界にあこがれているという時点で,タイタスは反逆者予備軍である。それが,城の重要な儀式である<七色の彫刻の日>を放り出し,タイタスの乳兄妹<やつ>を追いかけて城外の森に飛び出てしまったことによって,タイタスは真の反逆者になってしまった。
だが,反逆者同士でありながらタイタスとスティアパイクとが手を結ぶことはなかった。
もともと,タイタスはスティアパイクに生理的な嫌悪感を抱いていた。そして,スティアパイクが恐るべき殺人者であることをタイタスが知って,両者は完全に敵同士となった。さらに,フューシャがスティアパイクに殺されたものと信じ込んだことにより,タイタスにとってスティアパイクは殺さなければならない存在へと変わる。
『ゴーメンガースト』終わりの数章はタイタスとスティアパイクの直接対決が描かれている。大洪水に見舞われたゴーメンガースト城の一角で,両者が己の存在理由をかけて殺し合う,本作最大のクライマックスである。
というわけで,本作は後半から盛り上がり,とくに最後150ページぐらいは出張中の飛行機の中で一気に読んでしまったほどである。
この余勢を駆って手を出すのが,タイタスが城を出た後の話,『タイタス・アローン』である。
さて,タイタスの旅にどんな結末が訪れるのか?
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