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2017.01.04

トランプの年

あけましておめでとうございます。今年最初の記事です。

この年末年始は例によって小生とツマの実家を両方訪問し,移動距離の合計は2000キロを超えたものと思います。

その旅路のお供に持って行ったのが,これ,実業界最大の教養人,ライフネット生命保険の出口治明(でぐち はるあき)氏の著書,『人生を面白くする 本物の教養』であります。

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出口 治明

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この本,目次を読むだけで全貌がわかるという親切設計。平易な文章ですが,ファクトや数字に裏付けられた説得力のある内容で,「なるほど」と納得することしきり。

この本の中で,週に一回は英字紙の記事を読みましょう,とか,未来を予測できない我々は歴史に学ぶしかない,とか書いてありましたので,それを実践するべく,自宅に戻り次第,最初にチャレンジしたのが"the guardian"紙の記事を読むこと。こういう記事を読んでみました。

"Will Donald Trump's election put America first and global conflict next?" (by Nouriel Roubini, the guardian, Tuesday 3 January 2017)

以下はその要約と感想。文体が変わります。


◆   ◆   ◆



  • ドナルド・トランプの大統領選勝利は,グローバリズムに対するポピュリストからの反撃という側面があるとともに,70年続いた"Pax Americana",つまり,アメリカと同盟国が第2次世界大戦後に築いた自由貿易と安全保障の体制の終焉の前兆という側面もある

  • トランプが本気で「アメリカ第一」主義を推し進めるのであれば,彼の政権は孤立主義,単独行動主義にシフトし,米本土のことしか考えなくなるだろう

  • 1920~30年代,米政権が同じような政策を採り,第二次世界大戦の種をまいたことを思い出すべきである

  • "Smoot-Hawley tariff"によって始まった保護貿易主義は,報復的な貿易・通貨戦争を引き起こし,大恐慌を悪化させた

  • 太平洋と大西洋に守られているという誤った認識は,日本とドイツの台頭を許した

  • いま,再び,孤立主義を採り,米本土のみに関心を寄せることは,世界各地の紛争を激化することにつながる

  • アメリカがヨーロッパへの関心を失っていない現在ですら,すでにヨーロッパでは,イギリスにおけるBrexitの決定,イタリアにおける五つ星連合の勝利,フランスにおける国民戦線の台頭,などに見られるように,分離主義が拡大している

  • アメリカがヨーロッパから撤退すれば,失地回復に燃えるロシアがヨーロッパで権勢をふるうことになる

  • トランプが国産のエネルギー開発に重点を置けば,中東への関心は薄れ,この地域を不安定化させる

  • トランプのアメリカ第一主義はサウジアラビア―イラン間の「スンニ・シーア代理戦争」を長期化させ,地域大国であるイラン,サウジアラビア,トルコ,エジプトの核武装化を促す

  • 数十年の間,米国はアジアの経済と軍事に強い影響を及ぼし,この地域を安定化させていたが,いま,中国はこの現状に挑戦しようとしている

  • オバマ政権の戦略であるTPPを破棄することは,アジア・太平洋・南米地域の経済活動の主導権を中国に譲ることとなる

  • 米国がフィリピン,韓国,台湾との同盟を破棄すれば,これらの国は中国に屈服することだろうし,日本やインドといった他の同盟国は軍事力を増強し,中国とあからさまに対決しようとするだろう

  • 保護貿易主義と孤立主義は,1930年代と同様に世界経済の成長を妨げ,世界秩序への挑戦者たちを勇気づけてしまうことだろう

  • トランプは,米国が太平洋と大西洋によって守られており,中国やロシアやイランといった野心的な国々から直接の脅威を受けないと思っているかもしれない

  • しかし,米国はすでに複雑に入り組んだ経済・軍事の国際的なネットワークの中に存在しているわけで,野心的な国々が保有する核兵器やサイバー兵器などによって,ある日突然,米国本土が脅かされないとも限らない

  • 歴史の示すところは明らかだ: 保護貿易主義,孤立主義,「アメリカ第一」主義は経済的・軍事的災厄のもとである


◆   ◆   ◆


Nouriel Roubiniはニューヨーク市立大学スターン・スクール・オブ・ビジネスの教授。クリントン政権,IMF,連邦準備制度理事会,世界銀行などで働いた経験を持っているとのこと。

良くまとまった論説だが,「今の状況は大戦前と似ている」というのはよく聞く話である。

第二次世界大戦前夜の状況から学ぶべきものは多いが,プレーヤーの多さ,国際関係の複雑さは大戦前夜と現在とでは比べ物にならないほどであるから,「経済的・軍事的災厄」と言ってもそれは大戦後と全く違うものになっているであろうと思われる。

気を付けなくてはならないのが,"Pax Americana"を是とする者にとっての「経済的・軍事的災厄」は,他の者にとっては「経済的・軍事的災厄」とはならないかもしれないという点である。だからこそ現在の秩序に対する挑戦者が登場するわけで。

そういえば,およそ10年前に別宮暖朗の『軍事学入門』を読んだ(参考)が,そこでは「平和とは現状維持である」ということが書いてあった。そういうことであれば,平和を希求する場合には"Pax Americana"を認めなくてはならない,ということになるのだろう。

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