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2016.12.18

光瀬龍『無の障壁』を読む

先日から光瀬龍作品を続けて読んでいるわけだが,今回は短編集の『無の障壁』を取り上げる。

Munoshouheki

光瀬龍『無の障壁』(ハヤカワ文庫 JA 109)

表紙は金森達。小生は萩尾望都の表紙よりも,哀切を帯びた,(ときには抽象画的な)金森達の方が良いと思っている。

「無の障壁」,「勇者還る」,「決闘」,「スペース・マン」,「異境」,「訣別」,「クロスコンドリナ2」の7編が収められているが,いずれも宇宙を舞台とした,光瀬龍の初期作である。「決闘」は萩尾望都によって漫画化されたような気がするのだが,記憶違いか? (→【2016年12月27日追記】やはり,記憶違いでした。萩尾望都ではなくて竹宮恵子が「決闘2108」として漫画化。)

「無の障壁」は裏表紙(↓)にあらすじが書いてあるが,冥王星の突然の爆発をきっかけとして,主人公が人類の危機に立ち向かうという話。初出は「SFマガジン」1964年4月号。

深宇宙から人類に破滅が迫るという内容や,主人公が調査員という設定など,代表作長編『たそがれに還る』(早川書房から1964年11月20日に書き下ろし長編として刊行)を彷彿とさせる。「無の障壁」はほぼ同時期に書かれた『たそがれに還る』のダイジェスト版とでも言えるのではなかろうかとも思った。

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『たそがれに還る』のヒロ18,『派遣軍還る』(宇宙塵版・SFマガジン版ともに)のリーミン,『百億の昼と千億の夜』のあしゅらおう,『征東都督府』ほかタイムパトロールシリーズの青龍寺笙子というように,光瀬龍作品には聡明で勇気のある女性が登場するのだが,この「無の障壁」にもそれっぽい異星の女性が登場する。

深宇宙からの脅威によって,太陽系の惑星が滅ぶというあたり,『たそがれに還る』の地球もそうだし,『失われた都市の記録』の第五惑星アイララもそうだし,光瀬龍作品で繰り返し登場するモチーフである。前にも言ったが,偉大なるマンネリズム。こうやって,光瀬龍作品を集中的に読んでいると,同じアイディアが繰り返され,なんだか松本零士作品を読んでいるときと同じような感覚にとらわれる。

文章は相変わらずの光瀬節。

たとえば,小生であれば,

「今,七千万の市民たちはその個室(/コンパートメント)の中で深い眠りについていた。」

と書くであろう所を,光瀬龍は

「七千万の市民たちの眠りはその個室(/コンパートメント)の中で今,深かった。」

と書くわけである。とても良い。

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