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2016.10.18

目からウロコ:『比較政治学の考え方』

この本を読むまで,比較政治学というのは,ある国と別の国の政治制度を比較してあれこれ論評するだけの学問だと思っていた。

だが,全然違っていた。

比較政治学の考え方 (有斐閣ストゥディア)比較政治学の考え方 (有斐閣ストゥディア)
久保 慶一 末近 浩太 高橋 百合子

有斐閣 2016-03-16
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比較政治学の手法は自然科学の手法と似ている,というのが小生の感想。

自然科学というのは,莫大な数の実験を繰り返すことによって,法則性を見出したり,または既にある理論を検証したりする手法をとっている。

人文科学系の分野では同じ現象が繰り返されることが少ないので,自然科学と同様の実験的手法をとることはできない。しかし,繰り返しの実験を行うことができなくても,似た現象を比較することによって,自然科学ほどの厳密さはないにしても法則性を見出すことはできる。

比較政治学の場合,複数の地域・国の政治現象を比較することによって法則性を見出そうとするわけである。

本書では比較政治学の定義をこのように定めている:

「世界中で生じる国内の政治現象を研究し,そこから普遍的な理論を導き出すことを目指す学問」(本書2ページ)

本書では比較政治学と混同されやすい国際関係論との違いも冒頭で明確に示している:

「国際関係論は,基本的には国家と国家の間で起こっている事柄(外交交渉,国家間戦争など),また国家を超えて起こっている世界レベルの現象(冷戦構造,国際的な制度など)を考察対象にしている。国際関係論においては,多くの場合,国家はアクター(行為主体)として扱われる」(本書2ページ)

これに対して,

「比較政治学では,政治体制の類型やその変動,政治制度,政治家・政党・利益団体の行動など,その国で起こっている政治現象に関心を寄せる。比較政治学において,多くの場合,国家はアクターではなく,分析対象の政治現象が起こる舞台なのである」(本書2ページ)

このように,比較政治学というものをしっかりと定義したうえで,基本的な着眼点や比較分析の手法(統計,数理モデル,事例研究)などを説明しているのが本書の第1章。そのあとの第2章から第13章までは具体例が続いている。例えば,国家の成立,民主化,クーデターなど,比較政治学で取り上げられる具体的なテーマごとに,分析や理論化の実例を示している。これが,本書の構成である。


◆   ◆   ◆


正確な比較分析の実例は本書に譲るとして,小生が適当に作ってみた例で,比較政治学の考察の仕方を示してみよう。

例えば,議会制民主主義を採る国はいくつもあるが,その中で,政権交代がよく起こる国と,特定の政党が長期にわたり安定的に政権を保持する国とがある。両者の違いを生み出す要因は何か? もし,要因がわかれば,政権交代が起こるメカニズムというか法則性を明らかにすることができる。

こうした要因を追及する際,比較政治学では3タイプの要因があるものとして研究を進める。それは,構造的要因,制度的要因,アクター的要因である。

いま取り上げた政権交代の例で考えてみる。

複数の国の政権交代事例を検討したところ,政権交代の前に不景気など経済状況の悪化がみられたとする。そうすると,経済,すなわち構造的要因が政権交代に影響しているものとみなされる。

また,小選挙区制を採っている国々で政権交代が起こりやすく,その他の選挙制度を採っている国々で政権交代がまれであるような場合,選挙制度,すなわち制度的要因が政権交代に影響しているものと判断される。

さらにまた,カリスマ政治家の登場が政権交代を引き起こして事例が多く見いだされるのならば,アクター的要因が政権交代に影響していると考えてよいだろう。

どれか一つの要因だけが効いているわけではなく,複数の要因が強弱いろいろな影響を与えて,一つの政治現象を生み出している。

式で表せば,こうなるだろう:

p = f(x, y, z, ...)

x, y, z, ...という要因の結果,pという政治現象が現れるということである。


◆   ◆   ◆


こういうように,複数の現象を比較しながら原因と結果の因果関係を明らかにしていくという手法,これはミルの方法に他ならない。比較政治学というのは,自然科学に範をとった,きわめてオーソドックスな学問であると言って良いだろう。

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