(続)日曜言語学者の憂鬱:"B"と"V"の関係を考える
以前,「ベータ(β)はいつヴィータとなりたまいしか?」という記事で,ギリシャ語の”β”という文字が,/b/という子音ではなく,/v/という子音を表すのに使われていることを述べた。
古代ギリシャ語では”β”は,/b/という子音を表すのに使われていたものの,ニコラス・バフチン『現代ギリシア語研究入門』の子音に関する記事によれば,”β”の/v/化は紀元前4~3世紀に地中海各地ですでに始まっていたのだそうだ。
日本語ではもともと/v/の発音は無かった。/v/の発音を表現するため,近代に入って「ヴ」という書き方をするようになったものの,日常の日本語会話の中で「ブ」と「ヴ」を区別して発音することは皆無である。
ギリシャ語の場合は歴史的に/b/から/v/へとシフト,日本語の場合は,/b/と/v/を/b/に統合,というように,/b/と/v/を等価に扱っている。
他の例はないだろうかと調べてみたら,スペイン語でも/b/と/v/を/b/に統合していることがわかった。スペイン語では"Victoria"は「ヴィクトリア」ではなく「ビクトリア」なのである。スペイン語の影響を受けているバスク語でも/b/と/v/を/b/に統合している。
音声学において/b/と/v/はともに下唇を用いて調音される音,唇音(しんおん,Labial consonant)に属している。
唇音はさらに,両唇音(Bilabial consonant)と唇歯音(Labiodental consonant)に分かれ,/b/は両唇音に,/v/は唇歯音に属している。
/b/と/v/の交替や統合は,唇音の中での交替や統合として考えれば一応は納得ができるが,小生のような日曜言語学者ではなく,プロの言語学者の見解はどうだろうか?
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