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2016.07.07

「太平記」ファンの皆さま,『南朝研究の最前線』が出ました

全国1000万人の「太平記」ファンの皆さま,おまっとさんでした。

洋泉社から『南朝研究の最前線』が出ました。

南朝研究の最前線 (歴史新書y)南朝研究の最前線 (歴史新書y)
日本史史料研究会

洋泉社 2016-07-02
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最近は出張続きで疲弊しているのだが,荒廃した心をいやしてくれるのは歴史書である。

本書は1970年代から80年代に生まれた,30代から40代の若い研究者たちが主力となって執筆した最新の南朝研究の論考集である。

30代から40代を若いというかという批判はあるかもしれないが,小生から見れば年下ぞろい。

以前は中世日本の研究者と言えば網野善彦のようなはるかに年上の人々を思い浮かべていたのであるが,よくよく考えれば,年年歳歳,若い研究者が陸続として輩出されてくるわけで,小生よりも年下の研究者たちが次第に主力となってくるのは当たり前のことだ。

本書を読んで面白いと思ったのは,かつて一世を風靡していた網野史観がここにきて一掃されそうな雰囲気だということ。

かつてのカリスマ歴史学者たちは観念が先にあって,その観念に応じて証拠をそろえるようなスタイルだった。

これに対して本書の執筆者たちは,実証性を非常に重んじており,例えば雑訴決断所牒(ざっそけつだんしょちょう)といった当時の公文書等の分析を通して,「建武政権」の意思決定システムを明らかにしている。

網野善彦にかかると,後醍醐天皇などは異形化されてしまうのだが,それは図像からの発想。本書所収の中井裕子,亀田俊和の論考などを読むと,後宇多天皇の統治システムを継承した,わりと堅実な,わりと普通の統治者(治天の君)としての後醍醐天皇の姿が浮かび上がってくる。

建武政権には旧鎌倉幕府の武家官僚たちが大勢参加したし,武士たちはわりと公平に恩賞を受けた。

話としては「異形の王権」(by 網野善彦)であることの方が面白いのだろうけれど,本書で示されるのは鎌倉幕府や室町幕府と建武政権との不連続性よりも連続性の方である。

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