『ラオス史』(めこん)の読み直し
東南アジア史の大家,マーチン・スチュアート=フォックスによる『ラオス史』(めこん)を読み直しているところである。通常だと読み飛ばしてしまいそうな序章が面白い。
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マーチン・スチュアート=フォックスはこの本の意義,位置づけについてしっかりと書いている。
歴史書の書き方はいろいろある。「△△年,○○王が××をした。」というような,特定の人物の事跡を連ねていくのはどちらかというと古い書き方である。有名人の事跡よりも集団を,民衆を,少数派を,社会制度を,環境を,世界との関連を・・・というように,多様な主体によって成立する,一筋縄ではいかないシステムを描くのが昨今の歴史書の叙述スタイルだと思うのだが,本書はあえて古い叙述の仕方を選んでいる。
というのも,
「21世紀のグローパル化に国家が翻弄される時,多民族からなるラオスの人々が直面する課題の最たるものは,包括的なラオスアイデンティティーを再強化するのに役立つ歴史叙述の構築」(本書16ページ)
が求められており,この本はそのための歴史書だからである。
そのため,そもそもラオスという国のかたちが出来上がったのはそんなに古い話ではない,とか,現在のラオスはランサーン王国からの連続的した歴史を持つ国家ではない,とか,ラオス人というのは多様な民族で構成されていて,いわゆるラオ人たちの歴史に絞った叙述は適切ではない,とかいったような,現代の歴史家から呈されそうな様々な問題をわかったうえで,
「ラーンサーン王国からラオス人民民主共和国にいたるラオスの歴史は連続しているとのラオス人の主張を支持して」(本書14ページ)
歴史上のラオ人の指導者たちとその敵対者たちの行動の記述を中心に,この本は書かれている。
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