豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者』を読む(続)
明治維新から終戦までの年月にほぼ等しい長さを持つ「戦後」。その戦後の建築を牽引したのは丹下健三とその弟子たちだった。
豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者』(岩波新書)は丹下健三とそのシューレの思想と足跡を要点を抑えつつコンパクトに記述している。
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もちろん,戦前・戦後を通じて精力的に多数の建築物を設計した村野東吾という巨人だっているし,「浪速の春団治,庶民派建築家,武闘派で鳴らしたスター安藤忠雄」(by 森山高至)だっている。
しかし,丹下健三が他の建築家と違う点は,国土や都市,人口動態,人の流れといったことを踏まえて時代を象徴するような建築を設計してきたという点であろう。
丹下研究室では,都市の建築総量や人口の地域間移動といったテーマが卒論・修論の研究テーマとして取り上げられ,その結果を踏まえて都市計画や建築物の設計が実施されていった。
丹下健三作品としては新旧両都庁舎,国立代々木競技場等が有名だが,これらは与えられた敷地で完結する建築物ではなく,出入りする人々の流れ,周辺の交通システムとの関係を踏まえ,都市全体と一体化して機能することを目的とした建築物である。
丹下健三は建築物単体のみならず,未来の都市や国土をも構想した。「東京計画1960」や「東海道メガロポリス」等がその代表例である。
本書の著者の言葉を踏まえれば,丹下健三は常に「芸術家としての感性のみならず,科学者として都市の動きを客観的に把握する科学的な知を重視した」(本書52頁)のである。
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