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2016.06.28

大名の石高はパレートの夢を見るか?

前から気になっていたことをやってみた。

江戸時代の大名の石高の分布はひょっとしたらパレートの法則(ざっくり言うと「80-20の法則」)に従うのではないかと。

パレートの法則というのは経験則で,全体の数値の大部分(8割)は,全体を構成する要素の一部(2割)が生み出している,というような内容。

これを大名の石高でいえば,全国の石高の8割を2割の大名が占めている,ということになる。

果たしてそうだろうか?

とりあえず,寛文印知に基づいて,17世紀中ごろの大名の石高をまとめてみる。

次の表に示すのが,大名の石高を高い順に並べた結果である(全部で227家):

ただし,Wikipediaにも記載されているように,甲府徳川家,舘林徳川家,御三家については寛文印知の対象外だったので,それらの石高はあまり正確でない。

また,ここに挙げた石高には大名以外の大領主,例えば公家,門跡,寺社等は含まれていない。あと,重要なことだが幕府直轄地も入っていない。

以上のデータを使って,大名を石高の高い順に並べてみたのが下のグラフである:

Kanbun01
各大名の石高(石高の高い順に並べた結果)

1位はもちろん加賀百万石で知られる前田家。次が伊達で,尾張名古屋の徳川家,島津,そして紀伊和歌山の徳川家と続く。5位までで全大名の石高の2割近くになる。

このグラフの縦軸を対数表示にしたのが次の図である:

Kanbun02
各大名の石高(指数表示。石高の高い順に並べた結果)

200位以下は10,000石ちょうどの大名ばかりなので,直線的になってしまう。

必ずしもきれいな回帰ができないが,指数関数で回帰した結果も重ね合わせてみた。


次に,大名を石高の高い順に並べ,それらの石高を累積してみた結果を示す。

Kanbun03
累積石高(石高の高い順に並べた結果)

随分ときれいな曲線となった。上位20%,すなわち45位までの石高の合計は1237万石で全体に占める割合は67.8%だった。約7割。惜しくもパレートの法則には届かなかった。

ただし上述したようにここでは幕府直轄地の石高が入っていない。それを入れたらパレートの法則にしたがう結果が出るかも。

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植木鉢にキノコが生えた件

梅雨時とか,雨が続くと,うちの庭にはキノコが出現することがしばしば。

本ブログでは,うちの芝生に白くて立派なキノコが生えたことを記事として取り上げた(参照)。

今回は植木鉢に黄色っぽいキノコが生えてきたことを取り上げる。

発見し,撮影したのはうちのツマ。こんなやつ:

Dsc_0706c

Google先生に「梅雨時 キノコ 植木鉢」と打ち込んで調べてみると,どうやら似たものが見つかった。

「コガネキヌカラカサタケ」というらしい。

森林総合研究所九州支所によると,熱帯性で食毒不明とのこと。

食べてみたという猛者もいる:

コガネキヌカラカサタケを食べてみた」(月刊きのこ人)

本当に大丈夫なのか?


キノコで思い出したが,こんな本があった。梅雨時にふさわしいかも:

きのこ文学名作選きのこ文学名作選
飯沢耕太郎 萩原朔太郎 夢野久作 加賀乙彦 村田喜代子 八木重吉 泉鏡花 北杜夫 中井英夫 正岡子規 高樹のぶ子 宮澤賢治 南木佳士 長谷川龍生 いしいしんじ

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2016.06.27

英国のEU離脱:ロンドン独立再論

月曜日を迎えたが英国のEU離脱決定の衝撃がまだ続いている。

もともと投票前の調査結果では残留・離脱両派が拮抗していたのだから,どちらに転んでもおかしくない状況だった。にもかかわらず,離脱が決まってみると大騒ぎである。

決まったことにケチをつける動きもある:

英離脱で国内外の混乱続く、投票やり直しの請願350万人超に」(ロイター,2016年6月26日)

天気が悪くて投票に行かなかった人がいるだの,投票時によく考えずに投票した人がいるだの,いろんな理由でやり直しをするべきだ,という意見があるようだ。

しかし,この国民投票は突然行われたものではなく,よく考える時間は十分に与えられていたはずであるし,天候云々は離脱派にとっても残留派にとっても等しい条件である。相当な不正行為があったのではない限り,「今のは,無し」というのは許されない。

今大事なことは,結果をひっくり返すことではなく,次の2つだ:

  1. 離脱派の勝因分析
  2. 離脱後の英国の未来像を描くこと

1.の勝因分析についてはBBCがコンパクトにまとめているので参考になる:

【英国民投票】 離脱派が勝った8つの理由」(BBC, 2016年06月25日)

また,国民投票前にガーディアンに乗っていたこのオピニオン記事は残留派敗北の原因を考えるうえで,非常に参考になった:

"Why do some of us with migrant parents want to vote for Brexit?" (Iman Amrani, the guardian, 22 June, 2016)

英国では移民2世,3世のうち,3分の1は離脱派だったのである。残留派は,EU出身の移民と英連邦出身の移民との間の不公平感を解消することができなかったと考えられる。

2.の離脱後の英国の未来像に関しては,ロジャー・ブートルがその著書『欧州解体』で述べていたことの抜粋が参考になる:

英国のEU離脱は、極めて合理的な判断だった――英トップエコノミストが予言していた「崩壊」」(東洋経済,2016年06月24日)

あと,英国未来像に関連した話題だが,前の記事で取り上げたスコットランド独立の動きとともに,ロンドン独立という冗談のような話も起こっている。

これについては小生は冗談だとは思っていない。少し前にガーディアン紙でロンドン独立のアイディアが出ていたからだ。

"UK growth? Make London independent to mend the north-south divide" (by Larry Elliott, Sep. 22, 2013, The Guardian)

本ブログでは2013年当時,この記事に対する解説を行った。今回の国民投票にせよ,スコットランド独立にせよ,ロンドン独立にせよ,背景にあるのは英国内の深刻な地域間格差である。

英国は回復不能なほど地域間格差が広がっているということを前提に未来像を描きなおすべきだろう。

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2016.06.25

Brexitの次はスコットランド独立で

Britain voted out.

昨日はBrexitすなわち英国離脱が決まったということで,世界中大騒ぎだった。とくに金融・証券市場は阿鼻叫喚。

というか,残留派と離脱派が拮抗していたことは世論調査で分かっていたのだから,ほぼ50%の確率で離脱する可能性があったわけである。ここまで驚く話だろうか?

とはいえ,歴史的な結果だというのはその通りである。

離脱派の関心は増え続ける移民の数をコントロールしたいということだった。これに対し,残留派は離脱時の経済的な問題を取り上げていた。議論がかみ合わない。残留派は離脱派の関心事に対して正面から向き合っていなかった。これが,敗因の一つだっただろう。

さて,どちらかというと残留派の主張をしていたthe guardianが今回の国民投票の分析結果をまとめている(the guardian "EU referendum: full results and analysis")。

Brexit01
the guardian紙電子版"EU referendum: full results and analysis"より

全体の投票結果はご存知の通りだが,選挙区(自治体)ごとの投票結果をまとめた地図(↓)を見ると興味深いことがわかる。

Brexit02
同じくthe guardian紙電子版"EU referendum: full results and analysis"より

残留派(黄色)と離脱派(青)とで国土が明確に2極化しているのである。

ロンドンや一部の大都市,そしてスコットランドは圧倒的に残留派。そしてそのほかの広大な地域が離脱派となっている。

以前行われたスコットランド独立を問う住民投票の際,スコットランド独立派は独立が成功した場合,EUの一員としてEUとより緊密な関係を持つことを唱えていた。

ここにきて,英国全体がEUから離脱を決めた以上,親EUのスコットランドが黙っているわけにはいかないだろう。すでにスコットランド独立派のリーダーにしてスコットランド自治政府首相の二コラ・スタージョンは第2回独立投票の実施を目指して動き始めている:

"Nicola Sturgeon: second Scottish independence poll highly likely" (Severin Carrell Scotland editor and Libby Brooks, Friday 24 June 2016)

Brexitで終わらない,第2ラウンドが始まろうとしてる。

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2016.06.23

平和を創り出す工場としての広島平和記念公園

1949年,「広島市平和記念公園及び記念館協議設計」において,丹下健三らの案が一等を獲得した(丹下都市建築設計が公開している当時の設計案および模型)。

この案に基づいて建設されたのが平和記念公園であり,「広島平和会館原爆記念陳列館(現・広島平和記念資料館)」をはじめとする建築物群であった。


丹下らしいといえるのはその配置である。

豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者』の記述を引こう:

「丹下は与えられた敷地の北側に位置する産業奨励館の残骸(現在の原爆ドーム)に照準を合わせるように南北に基準線を引き,この線上に祈りの場・広場・建築群を配していった。この建築群は敷地の南端に位置し,基準線に直行する東西方向に長く配置している。この結果,敷地の中央に立派な施設をするのではなく,彼岸の象徴ともいえる原爆ドームと直に向き合う広場の建設に力点が置かれた配置計画となった」(『丹下健三――戦後日本の構想者』,15~16ページ)

位置関係は下のマップからも確認できるだろう。太田川が平和記念公園と原爆ドームとを分け,此岸と彼岸との関係を演出しているのである。

原爆被災者慰霊のために,当初は鐘楼のようなものを建設する案があったようである(進駐軍広島市建築・都市計画顧問・ジャッピー案)。

しかし,「平和は訪れてくるものではなく」「実践的に作り出していくものである」と考えた丹下は,「平和を創り出すための工場」として広島市平和記念公園と記念館とを整備する決意をしたのであった。

日米において様々な議論はあったが,オバマ大統領の広島平和記念公園訪問は平和を創り出す工場としての機能をリブートする意味を持っていた。

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豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者』を読む(続)

明治維新から終戦までの年月にほぼ等しい長さを持つ「戦後」。その戦後の建築を牽引したのは丹下健三とその弟子たちだった。

豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者』(岩波新書)は丹下健三とそのシューレの思想と足跡を要点を抑えつつコンパクトに記述している。

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もちろん,戦前・戦後を通じて精力的に多数の建築物を設計した村野東吾という巨人だっているし,「浪速の春団治,庶民派建築家,武闘派で鳴らしたスター安藤忠雄」(by 森山高至)だっている。

しかし,丹下健三が他の建築家と違う点は,国土や都市,人口動態,人の流れといったことを踏まえて時代を象徴するような建築を設計してきたという点であろう。

丹下研究室では,都市の建築総量や人口の地域間移動といったテーマが卒論・修論の研究テーマとして取り上げられ,その結果を踏まえて都市計画や建築物の設計が実施されていった。

丹下健三作品としては新旧両都庁舎国立代々木競技場等が有名だが,これらは与えられた敷地で完結する建築物ではなく,出入りする人々の流れ,周辺の交通システムとの関係を踏まえ,都市全体と一体化して機能することを目的とした建築物である。

丹下健三は建築物単体のみならず,未来の都市や国土をも構想した。「東京計画1960」や「東海道メガロポリス」等がその代表例である。

本書の著者の言葉を踏まえれば,丹下健三は常に「芸術家としての感性のみならず,科学者として都市の動きを客観的に把握する科学的な知を重視した」(本書52頁)のである。

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2016.06.22

『科学社会学の理論』再読(5)相互作用論(その3)

松本三和夫『科学社会学の理論』の第4章,相互作用論の続き。

『科学社会学の理論』はSTS相互作用モデルに立脚しており,第4章がこの本の中核部分である。

第5章以降はSTS相互作用モデルによる分析の応用例として地球環境問題や原子力発電開発を取り上げており,それはそれで面白い話なのだが,本ブログではSTS相互作用モデルを用いた記述法に関する本記事をもって一応の区切りとする。そうしないと別の本の感想文に進めないので。

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前記事では,科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の間の相互作用を表す,STS相互作用モデルを紹介した。

3

図1 STS相互作用モデル(再掲)

このモデルを念頭に,科学・技術・社会間の相互作用をどのように記述するのか,ということが本記事の課題である。

単純に考えると,科学と技術,技術と社会,科学と社会の間のヒト・モノ・カネ・情報の交流件数等を行列の形で表すと記述・計量の面で便利であり,曖昧さを回避できる。

しかし,科学分野がi個,技術分野がj個,社会のセクターがk個あり,ヒト・モノ・カネ・情報の4つの交流の仕組みがあるとすると,

  • 科学と技術の相互作用を表すために,i×j行列を
  • 技術と社会の相互作用を表すために,j×k行列を
  • 科学と社会の相互作用を表すために,i×k行列を

用意しなくてはならない。そして各行列の要素にヒト・モノ・カネ・情報の4つの数値をまとめて記述しなくてはならない。あまりにも煩瑣で現実的ではない。

そこで,科学と技術を「科学技術」として一括することを考える。19世紀後半以降,科学と技術とが一体化を進めてきた現実を踏まえると,これは合理的な近似手法である。

そして,特定の科学技術上の問題に関して,それに関係する研究活動を基礎研究,応用研究,開発研究の3分類に分けることとする。

こうすると,社会セクターが軍・産・官・学・民の5セクターあるとして,特定の科学技術上の問題に関しては5×3行列を用意することで,科学技術と社会との関係を定量的に記述することができる。

こうすることにより,STS作用モデルを科学技術と社会との相互作用に縮約したST&S作用モデルで近似することが可能となる。

ST&S作用を用いれば,特定の問題に関しするヒト・モノ・カネ・情報の交流件数等を次のような行列で表すことができる:


表1 STSマトリクスの概念図(ここで,iは情報,rは物財(モノ&サービス),hは人材,mは資金)


基礎研究応用研究開発研究
軍セクターi[1], r[1], h[1], m[1]i[2], r[2], h[2], m[2]i[3], r[3], h[3], m[3]
産セクターi[4], r[4], h[4], m[4]i[5], r[5], h[5], m[5]i[6], r[6], h[6], m[6]
学セクターi[7], r[7], h[7], m[7]i[8], r[8], h[8], m[8]i[9], r[9], h[9], m[9]
官セクターi[10], r[10], h[10], m[10]i[11], r[11], h[11], m[11]i[12], r[12], h[12], m[12]
民セクターi[13], r[13], h[13], m[13]i[14], r[14], h[14], m[14]i[15], r[15], h[15], m[15]

こうして特定の科学技術問題を概観する記述法を確立したうえで,やはり科学技術の内部における分野間・部門間の相互作用が気になる場合には,同じような行列表現を用いて定量的に記述することができる。

例えば,次のようなことである。α社とβ機関が同じ科学技術分野で協力関係にあるとして両者の共同研究の状況を行列表現で表すこととすれば,次のようになる:


α社基礎研究部門α社応用研究部門α社開発研究部門
β機関基礎研究部門△△件○○件○○件
β機関応用研究部門○○件△△件○○件
β機関開発研究部門○○件○○件△△件


ここで行列の非対角要素の件数(○○件で表現)が大きければ,研究段階の違う部門間での異種交配が進んでいるということになる。

また,ある科学技術分野γと別の科学技術分野δとを取り上げて両者の研究の交流状況を行列表現で表すこととすれば,次のようになる:


γ分野基礎研究γ分野応用研究γ分野開発研究
δ分野基礎研究△△件○○件○○件
δ分野応用研究○○件△△件○○件
δ分野開発研究○○件○○件△△件


このとき,行列の対角要素の件数(△△件で表現)が大きければ,分野間の異種交配が進んでいることになる。

このようにして行列表現を行うことにより,研究・開発形態の状況を定量的に記述することができるというのが,本書の主張である。

以上をもって,『科学社会学の理論』のメモの連載を終えることとする。

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『科学社会学の理論』再読(4)相互作用論(その2)

松本三和夫『科学社会学の理論』の第4章,相互作用論の続き。

相互作用論は本書の最重要項目なので,丁寧にメモを残しておく。

相互作用論では,科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の間の相互作用を取り扱う。そのモデルをSTS相互作用モデルという。

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科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の間の相互作用の特徴は,非対称性にある。

例えば,本書191ページで簡単に触れられている例を図にすると下図のようになる。


1
図1 科学・技術・社会間の相互作用の非対称性

例えば,科学と技術の間の人的交流に着目すると,科学側から技術側への人の流れのほうが大きい。

また,技術から社会への物財(モノやサービス)の流れは,技術から社会への情報の流れよりも大きい。それはどういうことかというと,消費者は商品を企業から購入するが,商品にかかわる情報はあまり知らないままということである。

また,科学と社会の間では物財や資金がやり取りされるが,社会から多くの物財,資金が投入されても,見返りとして科学から社会へと同じ量の物財,資金が流れてくるかというとそんなことはない。


今度は特に技術と社会の関係に注目してみる。社会は技術に影響を与え,方向性を定め,特定の技術を創出・発展させる。その特定の技術は社会のあるセクターに利益を与え,他のセクターに不利益をもたらす。つまり,技術が社会に与える影響は不均等に広がっていくといってよい。

その状況を小生が絵にしてみたのが下図である。この図2とその解説に関しては小生が考えたことなので,よろしくご承知おきください。


2
図2 科学・社会各セクター間の相互作用の非対称性

たとえば,社会の中の軍セクターが特定の技術の発達を促したとする。軍セクターはその技術の恩恵にあずかるが,場合によってはスピンオフ技術によって産セクターもより大きな恩恵にあずかることがありうる。と,同時にその特定技術によって民セクターに不利益が生じるかもしれない。

インターネットを構成する技術群を思い浮かべるといいかもしれない。インターネットに関する情報技術群はアメリカの軍セクターの要請で発達した。それが現在では産業分野で広く利用され,多くの産業が恩恵にあずかっている。もちろん一般の人々にとってもインターネットは広く利用されるようになった。だが,一般の人々にとって良い面ばかりかというとそうでもない。例えば,情報技術の発達は人々の職を奪いつつある。また,プライバシーの問題が起こっている。

というように個々の相互作用を検討したうえで,著者が提案するのが,社会の各セクターと科学と技術とが「チャネル」を通じて影響を及ぼしあうSTS相互作用モデルである。

本書195ページのオリジナルの図では社会の各セクターと科学と技術とを囲む「社会/環境」という枠組みが描かれているが,わかりにくくなるのでそれを省略して描いたのが図3である。また,ヒト・モノ(&サービス)・カネ・情報の流通を4本の矢印で表した。


3
図3 STS相互作用モデル(ただし,オリジナルの図の社会の各セクターと科学と技術とを囲む「社会/環境」という枠組みを省略。また,ヒト・モノ(&サービス)・カネ・情報の流通を4本の矢印で表した)

ここでチャネルというのは,学会や大学の研究室や企業の研究開発部門や国立の科学技術研究開発組織や軍事動員機構などである。

STS相互作用モデルの課題は,先に例示したような相互作用の非対称性,利益・不利益の不均等な配分を生み出すメカニズムを明らかにし,より望ましい意思決定のルールを探ることにある。

STS相互作用モデルを実際の複雑な科学・技術・社会の相互作用の記述や説明にどのように役立てることができるか? この疑問に関しては次の記事で取り扱う。

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2016.06.21

『科学社会学の理論』再読(3)相互作用論(その1)

内部構造論」,「制度化論」に続いて,今度は「相互作用論」についてのメモ。

松本三和夫『科学社会学の理論』では第4章で扱われているが,もっとも大事な章である。なぜ大事かというと本書が立脚するのが相互作用論の視点だからである。

相互作用とは,科学と技術の間の相互作用,そして科学と技術と社会の間の相互作用のことを指す。

これまで「内部構造論」や「制度化論」の批判的検討の中で見てきたように,科学(および技術)に従事する人間集団について論ずる際は,社会との相互作用を無視するわけにはいかない。

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本書では科学と技術と社会の間の相互作用について論ずる前に,まず,科学と技術の間の相互作用について述べている。

「科学技術」という言葉が示すように,現在では両者は一体化したもののように扱われている。しかし,真理の追及を目指す科学と有用な事物の実現を目指す技術とはもともと別個に発達してきた。

しかし,科学にしても技術にしても割と単純で個人の差配でどうにかできるレベルから,複雑で集団で取り組む必要があるレベルへと発達したことにより,両者は結びつきを強めるようになった。それが始まったのが19世紀後半である。両者の間でヒト・モノ・カネ・情報を介した交流が進展し,科学研究と技術開発とが一体化し始める。つまり「研究開発 (R&D)」の時代の始まりである(この辺の話は実は小生が最近論じているので興味あればこれを参照)。

科学と技術の一体化が進展するにつれ,科学と技術と社会の関係も変化する。著者の言葉を引こう:

「科学技術がこうした特性をもつようになると,社会との関係も変化せざるを得ない。単純化していうと,天才的な発明家が個人で必要に応じて情報,物財,人材,資金をその都度社会から調達する状態から,一定のチームによって運営されるプロジェクトへ,社会が,情報,物財,人材,資金をあらかじめ見込みで定常的に投下する状態へと変化する。<中略> つまり,科学技術は,社会と相互作用するようになる。」(本書174ページ)

このような科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の相互作用関係を本書では頭文字をとってSTS相互作用系と呼んでいる。

相互作用論とはSTS相互作用系の成立,存続,変化,衰退を記述し説明する試みのことである。

相互作用論は先行する内部構造論や制度化論に比べ「研究の手薄な領域」(175ページ)であり,同時に「すぐれて現在進行中の研究領域」(176ページ)である。

相互作用論における考察の前提となる3つの視点を著者は次のようにまとめている:

  • 科学,技術,社会を同格の開放系として見る
  • 科学,技術,社会の間柄に関する全ての言説を反射的,対称的に見る
  • STS相互作用系を,均衡の相と変化の相に区別して見る

ここで「反射的」とは,科学技術に関する知識や活動は社会的に決定される人工物であり,同時に,科学技術に関する知識や活動に関するメタ言説もまた人工物である,ということである。

また「対称的」とは,特定のメタ言説はそのメタ言説の妥当性にかかわらず成立する原因がある,ということである。

均衡の相とは科学,技術,社会の間の相互作用が安定的である相,変化の相とはそうした相互作用が変化する相のことである。

こうした視点の下,STS相互作用系としてどのようなモデルが提唱できるのだろうか? それは次の記事で……。

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『科学社会学の理論』再読(2)制度化論

前回の「内部構造論」に続いて,今度は「制度化論」についてのメモ。

松本三和夫『科学社会学の理論』では第3章で扱われている。

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内部構造論では科学者集団が社会に対して自律的に存在していること,科学者集団が規範を持ち,その規範が正当性を持っていること,等が前提となっている。

こうした科学者集団の自律性規範規範の正統性というのもは自明のものではなく,歴史的に獲得されてきたものだというのが制度化論の考え方である。

『科学社会学の理論』の著者は,制度化のモデルとして(初期)マートンモデル廣重モデルを取り上げる。マートンの考え方は初期と後期とで大きく変わっており,内部構造論に集中するようになった後期マートンおよびマートン派に対し,初期マートンは科学者集団と社会の関わり合いについて深く検討しており,制度化論にとって重要な議論を展開している。

(初期)マートンモデルは17世紀に英国で近代科学が成立したプロセス,すなわち「近代科学化」の過程に対するモデルである。近代科学化とは,科学者集団が科学制度へと移行する過程である。松本三和夫のまとめ方に従えば,近代科学化は(1)生成の相と(2)適応の相に分かれる。

(1)生成の相とは,(a)「神の栄光」(Glorification of God)と(b)「公共の福祉」(Commonweal)とを指針とするピューリタニズムが科学者集団の活動に「動因」を与えたフェーズである。近代科学は(a')物理的真実の探求を通して「自然の著者」である神の栄光を確証する点でピューリタニズムの「神の栄光」の指針に沿っており,また(b')実験科学のもたらす人間の物質的状態の改善を通して人類の幸福に貢献する点でピューリタニズムの「公共の福祉」の指針に沿っている。

こうしてピューリタニズムの指針に沿って動き始めた科学者集団の活動は,さらにピューリタニズムの指針に沿っているがために,正当性をも付与された。正当性を付与された科学者集団の活動は王立協会という制度として確立し,自立していく。これが(2)適応の相である。

廣重モデルは,19世紀の日本の西洋科学の受容過程ならびに西洋科学自体の専門職業化に対応したモデルである。専門職業化というのはアマチュアを排してプロの営みとして科学者集団の活動が行われるようになるというプロセスで,いわば科学制度が科学組織に移行する過程である。

本書の著者は制度化というものを(初期)マートンモデルと廣重モデルとを合わせた複合的プロセスとして再定義する。つまり,科学者集団が科学制度を経て科学組織になるというモデルを想定する。

ここで大事なのは複合的プロセスは必ずしも累積的ではない(後のプロセスが前のプロセスに関する記憶を必ずしも持たない)ということである。つまり,初期段階において社会の倫理と歩調を合わせ,社会から正当性を与えられて成立した科学制度が,自律性を帯びるにつれて社会から分離し,プロ集団としての科学組織となった際には,かならずしも社会の倫理に沿わない行動をとりうる可能性があるということである。

このため,専門職業化していながら規範や正当性を全く欠いた科学者集団というものが存在しうる。本書では詳しくは触れないが,例えばナチ政権下のアーリアン物理学というものが例として挙げられる。

結局,制度化論に関する検討の結果として言えることは,科学の制度化は社会的要因によって進展するのだが,社会と科学の間の調和は必ずしも約束されてはいないということである。

どんな時に社会と科学の間に調和が見られ,どんな時に不調和が起こりうるのか,それを検討することが科学社会学の次の課題となる。それを扱うのが「相互作用論」である。

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2016.06.20

『科学社会学の理論』再読(1)内部構造論

松本三和夫『科学社会学の理論』を再読中である。一読しただけでは消化できない。

著者は本書を科学社会学の教科書ではない,と述べている。しかし,最初の4章は科学社会学を構成する3つの論議,内部構造論,制度化論,相互作用論の主流の学説を批判的に解説しており,教科書としての役割を十分に果たしている。

本記事では内部構造論について取り上げてみる。

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「内部構造」とは個人および集団としての科学者の行動を通して明らかになる科学者集団内部の仕組みのことである。

内部構造論の前提となるのは

  1. 科学者集団の存在
  2. 科学者集団の自律性の存在
  3. 科学者集団における規範の存在
  4. 科学者集団における報酬系の存在

である。つまり科学者は科学者集団の中で固有の規範と報酬系のもとに行動している。そしてこの科学者集団は社会に対して自律して存在している,ということである。

科学者集団の内部構造モデルとしては,ハグストロムによる交換モデルやストラーによるシステムモデル等があるが,いずれにせよ科学者集団の自律性を前提としている。

科学者集団の規範としては

  • 普遍主義 (universalism):人種,国籍等の個人属性に関わらず科学知識を評価すること
  • 協同主義 (communism):科学知識を公開し科学者集団でシェアすること
  • 系統だった懐疑主義 (organized skepticism)
  • 感情中立性 (emotional neutrality)
  • 没利害性 (disinterestedness)

等が挙げられる。しかし,ミトロフ(Mitroff, 1974)やヒル(Hill, 1974)が示したように,実際の科学(および技術)の現場では,感情や利害が色濃く出ていたりして,必ずしも上述の規範が守られているとは限らない。むしろ,科学者集団が別の規範に従っている可能性もある。つまり,二重帰属の可能性である。

この点に関してはだいぶ前に紹介した本,三崎秀央『研究開発従事者のマネジメント』が主張していたことが思い出される。

研究開発従事者のマネジメント (福島大学叢書新シリーズ)研究開発従事者のマネジメント (福島大学叢書新シリーズ)
三崎 秀央

中央経済社 2004-04
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同書ではローカル志向とコスモポリタン志向という研究開発従事者が持つ2つの性質が述べられていた。要するに,企業研究者の場合,所属企業の規範・報酬系と所属学協会の規範・報酬系の両方に従うわけである。

ということで,科学者集団の自律性には議論の余地があることが明らかになった。科学者集団の自律性の根拠について検討をせず,外部から閉じた科学者集団を想定して検討することは無意味である。

科学者集団の自律性の根拠について歴史的考察を加えようというのが,次に来る「制度化論」である。

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2016.06.07

うちの猫:おこま(2)

先日も書いた(参考)が,うちでは1月末から猫を飼っている。

名を「おこま」という。

Okoma20160607up

大人しい性格で,トイレも一回で覚えた。

一度も糞尿の場所を間違えたことがない。

野良だった割には寄生虫もダニもなし。猫エイズも猫白血病もなし。猫風邪はひいているが。

Okoma20160607

元飼い猫かなーという疑惑はあるが,飼う1年も前からうちの庭に出入りしているので,もともと野良だったという気もする。

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2016.06.05

ロッシーニ風だらけ

先日来,東京出張の折や福岡出張の折に「俺のフレンチ」に行っているのだが,どちらでも頼んでしまうのが,「ロッシーニ風」である。

20160604
2016年6月某日博多店にて。450gのフィレ肉にフォアグラとトリュフ

20160526
2016年5月某日銀座店にて。牛ハンバーグの上にフォアグラ

どちらも衝撃的なボリュームだった。

ついでにカンボジアの有名店で食べたロッシーニ風も載せておく。

20150305
2015年3月某日プノンペンTOPAZにて。フィレ肉にフォアグラ

カンボジアの場合は胡椒をふんだんに使うので,また違うお味。

ロッシーニ風と聞くと興奮してしまうのはなぜ?

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2016.06.03

キリンビールから届いた

キリンの株主優待でビールの詰め合わせセットが届いた。

Kirinbeer

北海道,横浜,神戸,福岡各工場の醸造品だそうである。

ビールは大好きなのだが,残念なことにそれほど舌が肥えていないので,多分違いは判らないだろうと思う。

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2016.06.01

豊川斎赫『丹下健三――戦後日本の構想者 (岩波新書)』を読む

仮に明治維新以降を近代とすると,日本は近代に入って148年を迎えているわけである。そして,終戦(敗戦)の年,1945年を境とすると,明治元年から終戦までの「戦前」が77年,終戦から今年までの「戦後」が71年。多少長さが異なるが,だいたい真っ二つに分かれる。どちらの方が我々にとってリアリティのある時代かというと,後者,「戦後」である。

本書は近現代の日本建築の歴史のうち,「戦前」にあたる部分をバッサリ切り落とし,「戦後」に焦点を当てて記述している。そして,戦後建築の中心人物として丹下健三に焦点を当ててその軌跡,その思想をコンパクトに記述している。

丹下健三――戦後日本の構想者 (岩波新書)丹下健三――戦後日本の構想者 (岩波新書)
豊川 斎赫

岩波書店 2016-04-21
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当然のことながら,日本の建築の流れは丹下健三とそのスクールの面々だけで形成されてきたわけではないのだが,この本は,戦後の建築の流れをわかった気にさせてくれる。これ読むと,ほんとに丹下健三って偉かったんだなーと単純に思う。

良い本だと思うのだが,一点だけ文句を言いたいところがある。

序章のタイトル,「残酷な建築のテーゼ」。

これはいかん。エヴァンゲリオンじゃないんだから。

著者・豊川斎赫氏の年齢を見たら,小生よりも3つ下。大学時代にエヴァの洗礼を受けたのかもしれん。サブカルにも理解がありますよ的な悪戯は本書には不要だと思う。

あ,本書の内容に触れるのを忘れた。別記事で書こうと思う。

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