『科学社会学の理論』再読(4)相互作用論(その2)
松本三和夫『科学社会学の理論』の第4章,相互作用論の続き。
相互作用論は本書の最重要項目なので,丁寧にメモを残しておく。
相互作用論では,科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の間の相互作用を取り扱う。そのモデルをSTS相互作用モデルという。
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科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の間の相互作用の特徴は,非対称性にある。
例えば,本書191ページで簡単に触れられている例を図にすると下図のようになる。
例えば,科学と技術の間の人的交流に着目すると,科学側から技術側への人の流れのほうが大きい。
また,技術から社会への物財(モノやサービス)の流れは,技術から社会への情報の流れよりも大きい。それはどういうことかというと,消費者は商品を企業から購入するが,商品にかかわる情報はあまり知らないままということである。
また,科学と社会の間では物財や資金がやり取りされるが,社会から多くの物財,資金が投入されても,見返りとして科学から社会へと同じ量の物財,資金が流れてくるかというとそんなことはない。
今度は特に技術と社会の関係に注目してみる。社会は技術に影響を与え,方向性を定め,特定の技術を創出・発展させる。その特定の技術は社会のあるセクターに利益を与え,他のセクターに不利益をもたらす。つまり,技術が社会に与える影響は不均等に広がっていくといってよい。
その状況を小生が絵にしてみたのが下図である。この図2とその解説に関しては小生が考えたことなので,よろしくご承知おきください。
たとえば,社会の中の軍セクターが特定の技術の発達を促したとする。軍セクターはその技術の恩恵にあずかるが,場合によってはスピンオフ技術によって産セクターもより大きな恩恵にあずかることがありうる。と,同時にその特定技術によって民セクターに不利益が生じるかもしれない。
インターネットを構成する技術群を思い浮かべるといいかもしれない。インターネットに関する情報技術群はアメリカの軍セクターの要請で発達した。それが現在では産業分野で広く利用され,多くの産業が恩恵にあずかっている。もちろん一般の人々にとってもインターネットは広く利用されるようになった。だが,一般の人々にとって良い面ばかりかというとそうでもない。例えば,情報技術の発達は人々の職を奪いつつある。また,プライバシーの問題が起こっている。
というように個々の相互作用を検討したうえで,著者が提案するのが,社会の各セクターと科学と技術とが「チャネル」を通じて影響を及ぼしあうSTS相互作用モデルである。
本書195ページのオリジナルの図では社会の各セクターと科学と技術とを囲む「社会/環境」という枠組みが描かれているが,わかりにくくなるのでそれを省略して描いたのが図3である。また,ヒト・モノ(&サービス)・カネ・情報の流通を4本の矢印で表した。
図3 STS相互作用モデル(ただし,オリジナルの図の社会の各セクターと科学と技術とを囲む「社会/環境」という枠組みを省略。また,ヒト・モノ(&サービス)・カネ・情報の流通を4本の矢印で表した)
ここでチャネルというのは,学会や大学の研究室や企業の研究開発部門や国立の科学技術研究開発組織や軍事動員機構などである。
STS相互作用モデルの課題は,先に例示したような相互作用の非対称性,利益・不利益の不均等な配分を生み出すメカニズムを明らかにし,より望ましい意思決定のルールを探ることにある。
STS相互作用モデルを実際の複雑な科学・技術・社会の相互作用の記述や説明にどのように役立てることができるか? この疑問に関しては次の記事で取り扱う。
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