『科学社会学の理論』再読(3)相互作用論(その1)
「内部構造論」,「制度化論」に続いて,今度は「相互作用論」についてのメモ。
松本三和夫『科学社会学の理論』では第4章で扱われているが,もっとも大事な章である。なぜ大事かというと本書が立脚するのが相互作用論の視点だからである。
相互作用とは,科学と技術の間の相互作用,そして科学と技術と社会の間の相互作用のことを指す。
これまで「内部構造論」や「制度化論」の批判的検討の中で見てきたように,科学(および技術)に従事する人間集団について論ずる際は,社会との相互作用を無視するわけにはいかない。
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本書では科学と技術と社会の間の相互作用について論ずる前に,まず,科学と技術の間の相互作用について述べている。
「科学技術」という言葉が示すように,現在では両者は一体化したもののように扱われている。しかし,真理の追及を目指す科学と有用な事物の実現を目指す技術とはもともと別個に発達してきた。
しかし,科学にしても技術にしても割と単純で個人の差配でどうにかできるレベルから,複雑で集団で取り組む必要があるレベルへと発達したことにより,両者は結びつきを強めるようになった。それが始まったのが19世紀後半である。両者の間でヒト・モノ・カネ・情報を介した交流が進展し,科学研究と技術開発とが一体化し始める。つまり「研究開発 (R&D)」の時代の始まりである(この辺の話は実は小生が最近論じているので興味あればこれを参照)。
科学と技術の一体化が進展するにつれ,科学と技術と社会の関係も変化する。著者の言葉を引こう:
「科学技術がこうした特性をもつようになると,社会との関係も変化せざるを得ない。単純化していうと,天才的な発明家が個人で必要に応じて情報,物財,人材,資金をその都度社会から調達する状態から,一定のチームによって運営されるプロジェクトへ,社会が,情報,物財,人材,資金をあらかじめ見込みで定常的に投下する状態へと変化する。<中略> つまり,科学技術は,社会と相互作用するようになる。」(本書174ページ)
このような科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の相互作用関係を本書では頭文字をとってSTS相互作用系と呼んでいる。
相互作用論とはSTS相互作用系の成立,存続,変化,衰退を記述し説明する試みのことである。
相互作用論は先行する内部構造論や制度化論に比べ「研究の手薄な領域」(175ページ)であり,同時に「すぐれて現在進行中の研究領域」(176ページ)である。
相互作用論における考察の前提となる3つの視点を著者は次のようにまとめている:
- 科学,技術,社会を同格の開放系として見る
- 科学,技術,社会の間柄に関する全ての言説を反射的,対称的に見る
- STS相互作用系を,均衡の相と変化の相に区別して見る
ここで「反射的」とは,科学技術に関する知識や活動は社会的に決定される人工物であり,同時に,科学技術に関する知識や活動に関するメタ言説もまた人工物である,ということである。
また「対称的」とは,特定のメタ言説はそのメタ言説の妥当性にかかわらず成立する原因がある,ということである。
均衡の相とは科学,技術,社会の間の相互作用が安定的である相,変化の相とはそうした相互作用が変化する相のことである。
こうした視点の下,STS相互作用系としてどのようなモデルが提唱できるのだろうか? それは次の記事で……。
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