『科学社会学の理論』再読(1)内部構造論
松本三和夫『科学社会学の理論』を再読中である。一読しただけでは消化できない。
著者は本書を科学社会学の教科書ではない,と述べている。しかし,最初の4章は科学社会学を構成する3つの論議,内部構造論,制度化論,相互作用論の主流の学説を批判的に解説しており,教科書としての役割を十分に果たしている。
本記事では内部構造論について取り上げてみる。
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「内部構造」とは個人および集団としての科学者の行動を通して明らかになる科学者集団内部の仕組みのことである。
内部構造論の前提となるのは
- 科学者集団の存在
- 科学者集団の自律性の存在
- 科学者集団における規範の存在
- 科学者集団における報酬系の存在
である。つまり科学者は科学者集団の中で固有の規範と報酬系のもとに行動している。そしてこの科学者集団は社会に対して自律して存在している,ということである。
科学者集団の内部構造モデルとしては,ハグストロムによる交換モデルやストラーによるシステムモデル等があるが,いずれにせよ科学者集団の自律性を前提としている。
科学者集団の規範としては
- 普遍主義 (universalism):人種,国籍等の個人属性に関わらず科学知識を評価すること
- 協同主義 (communism):科学知識を公開し科学者集団でシェアすること
- 系統だった懐疑主義 (organized skepticism)
- 感情中立性 (emotional neutrality)
- 没利害性 (disinterestedness)
等が挙げられる。しかし,ミトロフ(Mitroff, 1974)やヒル(Hill, 1974)が示したように,実際の科学(および技術)の現場では,感情や利害が色濃く出ていたりして,必ずしも上述の規範が守られているとは限らない。むしろ,科学者集団が別の規範に従っている可能性もある。つまり,二重帰属の可能性である。
この点に関してはだいぶ前に紹介した本,三崎秀央『研究開発従事者のマネジメント』が主張していたことが思い出される。
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同書ではローカル志向とコスモポリタン志向という研究開発従事者が持つ2つの性質が述べられていた。要するに,企業研究者の場合,所属企業の規範・報酬系と所属学協会の規範・報酬系の両方に従うわけである。
ということで,科学者集団の自律性には議論の余地があることが明らかになった。科学者集団の自律性の根拠について検討をせず,外部から閉じた科学者集団を想定して検討することは無意味である。
科学者集団の自律性の根拠について歴史的考察を加えようというのが,次に来る「制度化論」である。
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