ワールポラ・ラーフラ『ブッダが説いたこと』を読む
ここ数年,今枝由郎先生が次から次へと仏教書を訳しては上梓している。これもその一冊だが,とても読みやすく面白い。
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奥付を見ると,小生が買ったのは2016年3月15日発行の第2刷。第1刷は2016年2月16日だから,ひと月足らずで増刷したことになる。
結構売れているということ。こんな時代,迷いを抱え,仏教に何かを求める人が多いということか?
著者ワールポラ・ラーフラ師はスリランカの高僧であり,哲学博士号(PhD)を持つ仏教の研究者でもある。
この本を読んでまず思うのが,元来の仏教は他の宗教とはきわめて異質であるということ。とくに,信仰/信心に立脚しない点が特徴である。
「肝心なのは,知識あるいは叡智を通じて見ることであり,信心を通じて信じることではない」(43ページ)
仏教では自由と自己責任性が重視され、人間は自らを拠り所とし、自らの努力と知性によってあらゆる束縛から自分を解放しなくてはならない。師の教えを無条件に受け入れてはならない。師は道を示すのみである。人々は自らその道を歩まなくてはならない。科学が方程式の丸暗記ではなく、観察事実に照らしながら論理を踏まえて思索を繰り返していくプロセスで構成されていることに似ている。
同じスリランカ出身のアルボムッレ・スマナサーラ長老(テーラワーダ仏教長老)がよく「仏教は心の科学」と言っているのだが,そのセリフが思い起こされる。
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「思想の自由と寛容」というのも仏教の特異な点である。
『ブッダが説いたこと』では次のようなエピソードが紹介されている:
仏教のライバルであるジャイナ教の開祖マハーヴィーラがその高弟ウパーリをブッダの許に送り,論戦を挑ませた。論戦でウパーリがブッダに負けた。ウパーリがブッダに弟子入りを申し出ると,ブッダはウパーリに再考を促した。ウパーリが再び弟子入りを申し出ると,ブッダはウパーリに今まで師事した人々を尊敬し支持するように促した。
他の宗教を尊重するという「共感的相互理解」の精神は仏教の中核部分の一つであろう。
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