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2016.04.02

角幡唯介『空白の五マイル』を読んだ

3月末にクアラルンプールまで出張してきた。なんか2週間に一度ずつ東南アジアに出張している。どうにかしてほしいこの状況。

それはそれとして,往復のフライトで本を2冊読み終えた。その一つがこれ,角幡唯介『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社文庫)。ツマから借りた本である。

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む (集英社文庫)空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む (集英社文庫)
角幡 唯介

集英社 2012-09-20
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ツアンポー峡谷というのは,地球最後の秘境の一つで,チベットの東の果て,コンボと呼ばれる地域にある。ヤル・ツアンポーという川が作り上げた大峡谷である。チベットというと乾燥した高原というイメージだ。しかし,ツアンポー峡谷はヒマラヤ山脈の東端で,南からモンスーンの湿った風が入り込む場所にある。そのため湿った密林に覆われ,人を容易には寄せ付けない。

19世紀後半からキントゥプ,ベイリーといった探検家がこの人類未踏の地に挑んだ。そして1924年に偉大なプラントハンターとして知られるキングドン=ウォードがこの地域を踏破し,ごく一部の区間を残してツアンポー峡谷の全貌を明らかにした。このキングドン=ウォードが到達できなかった区間は「空白の五マイル」と呼ばれ,多くの探検家を惹きつけてきた。しかし,1959年の中国共産党によるチベット占領以降,外国人がツアンポー峡谷に近寄ることは困難となっていた。

この空白の五マイルに2002年から2003年と2009年の2回挑んだのが,著者である。

本書はキントゥプに始まりイアン・ベイカーに至る百数十年のツアンポー探検史のパートと,著者自身の探検記録のパートとが交錯しながら展開するノンフィクション作品である。

ツアンポー探検史のパートは決して無味乾燥な歴史年表のようなものではない例えば,1993年9月にツアンポー峡谷に挑んで死んだ武井義隆――著者の大学の先輩にあたる――を描いた第三章「若きカヌーイストの死」は,武井とともに川に挑んだ只野靖やその他の関係者への取材・証言をもとにした,血肉の通った一章となっている。これだけで一つのドキュメンタリーとなりうる内容の濃さがある。

著者自身の探検記録のパートも迫真の描写に圧倒される。ダニの襲撃やイラクサの恐怖,寒さと湿り気により次第に感覚を失っていく足,食料不足によって次第にやせ衰えていく肉体。なぜこうまでしてツアンポー峡谷に挑もうとするのか。著者自身得ていない答えを読者も共に考えることとなろう。


◆   ◆   ◆


以下蛇足。

じつは,この本を読む前にキングドン=ウォードの『ツアンポー峡谷の謎』(岩波文庫)を読もうとしたことがある。だが,土地勘がないのと,540頁の大部であるのと,そして角幡唯介が言うように「彼の文章が退屈である」という事情により,100ページほどで断念していた。

今回,『空白の五マイル』を読んだことによって,ツアンポー峡谷に関するイメージが形成された。前よりは読みやすくなっているだろう。改めて『ツアンポー峡谷の謎』にチャレンジしたい。

ツアンポー峡谷の謎 (岩波文庫)ツアンポー峡谷の謎 (岩波文庫)
F. キングドン‐ウォード Frank Kingdon‐Ward

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