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2016.03.02

軽部謙介『検証 バブル失政――エリートたちはなぜ誤ったのか』を読む

タイ出張時にカバンに忍ばせ,機内や空港の待合室で読んでいたのがこの本。

新潮社や講談社から出ていそうなタイトルだが,昨年9月に岩波から上梓されている。

検証 バブル失政――エリートたちはなぜ誤ったのか検証 バブル失政――エリートたちはなぜ誤ったのか
軽部 謙介

岩波書店 2015-09-26
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1985年のプラザ合意後に始まり1990年に崩壊したバブル。その原因はよくわからない。しかし,バブルを加速させたのは日銀による金融緩和だ。

日銀の金融緩和がバブルの主犯でないにせよ共犯であることは確かだ,という前提のもと,圧倒的な取材力によってバブルの生成・崩壊過程の現場検証を行ったのが本書である。

本書には中曽根康弘,宮澤喜一,ドナルド・レーガン,ジェイムズ・ベーカー,ポール・ボルカーといった1980年代を代表する日米の政治家や経済官僚たちが続々と登場するが,中心に据えられているのは,当時の日銀総裁の澄田智と副総裁(のちに総裁)の三重野康の二人だ。

金融政策のかじ取りを任されているベスト・アンド・ブライテストたちがなぜ86年から87年にかけて極端な金融緩和を続けていったのか。そこには,米国からの直接・間接の強力な圧力があったことが本書からわかる。

米国政府は貿易赤字を解消すべく,円高と日本国内の内需拡大を日本政府に求めた。急激な円高は日本の輸出産業に打撃を与えた。日本政府,とくに大蔵省は為替の安定を図るため,公定歩合の引き下げを米国との取引材料として差し出した。日銀はもともとインフレ退治を旨とする組織であり,利下げには抵抗していたが,政治家や大蔵省の凄まじい圧力のもと,金融緩和に踏み切らざるを得なくなった。

そのころ日本ではちょうど地価と株価の高騰が始まっていた。バブルの胎動である。ここに金融緩和が加わり,金余り=過剰流動性が起こる。狂乱の時代の始まりである。この後は諸氏のご存知の通り。

本書は,国際協調の名の下に中央銀行の独立性が踏みにじられていく物語である。独立性を巡る攻防という点では城山三郎の『小説日本銀行』が思い出される。

小説日本銀行小説日本銀行
城山三郎

新潮社 2013-04-01
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近年,黒田総裁によって異次元緩和が推し進められている(※)。ついにはマイナス金利という日本史上初の金融政策が実施された。経済状況はだいぶ違うし,日銀法の改正により日銀の独立性は強化された(参照)。しかし,強力な金融緩和政策の影に,何となく政治の影を感じるのはこの本を読んでいるせいだろうか?


※1994年の民間銀行の金利完全自由化後は,公定歩合操作の代わりに短期金融市場の金利操作によって日銀は金融政策を実施。

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