蘇我マニア必読の書倉本一宏『蘇我氏―古代豪族の興亡』
これまでも本ブログで紹介してきているが,倉本一宏『蘇我氏―古代豪族の興亡』は蘇我マニア必読の書である。
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著者の蘇我氏に対する思い入れは桁外れである。蘇我氏の行く末を中世までトレースしているのは執念としか言いようがない。
大体の古代史の本では入鹿暗殺以降は蘇我氏についての記述がなくなるのだが,この本書の記述の半分は大化の改新以降のことである。
終章の著者の発言には著者の蘇我愛がみなぎっている:
これまで,古代氏族蘇我氏の興亡をたどってきた。乙巳の変における「蘇我氏の滅亡」などという言い方が,まったく史実を誤っていることは明らかで,それ以降の古代史を必死に生き抜いてきた蘇我氏(および石川氏・宗岳氏,またその同族)に対して,失礼というものであろう。(『蘇我氏―古代豪族の興亡』,250ページ)
著者の蘇我愛を感じるのは,これまで見たことがないオリジナルの単位,「蘇我氏濃度」という単位が本書のあちこちに見られることである。
「蘇我氏濃度」というのは,蘇我氏との血縁の濃さを測る単位で,例えば,馬子の妹・堅塩媛(かたしおひめ)と欽明天皇の間に生まれた橘豊日大兄王子(後の用明天皇)は蘇我氏濃度1/2である。
用明天皇と馬子の姪・穴穂部間人王女の間に生まれた厩戸王子(後の聖徳太子)は蘇我氏濃度1/2,聖徳太子と馬子の娘・刀自古郎女の間に生まれた山背大兄王は蘇我氏濃度3/4である。
大王/天皇家と蘇我氏との結びつきを示すうえで画期的な単位だと思うが,入鹿(とその他皇族・豪族のみなさん)によって蘇我氏濃度の濃い山背大兄王が滅ぼされた事件は蘇我氏濃度だけでは説明できないので,この単位は説明変数としては万能ではない。
(むしろ,非蘇我系皇族・中大兄王子と中臣鎌足によって山背大兄王と蘇我蝦夷・入鹿とがまとめて滅ぼされた,と考える鯨統一郎説(『邪馬台国はどこですか?』所収)のほうが,蘇我氏濃度による説明がしっくりくる)
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『蘇我氏―古代豪族の興亡』の第5~第7章は,奈良時代以降の蘇我氏の行く末(石川氏,宗岳氏)を詳述しているのだが,著者の蘇我愛が強すぎて,中級・下級官人となった蘇我氏の子孫の名前のオンパレードとなり,全く覚えきれない。こういうのは表にまとめてくれないかな,と思うのだが,「必死に生き抜いてきた蘇我氏に対して,失礼」と怒られかねない。
まあとにかく,本書でわかるのは,
蘇我氏は死なず。ただ(宮廷から)立ち去るのみ
Soga clan never die. They just fade away.
ということだろう。
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