『偐紫田舎源氏(にせむらさき いなかげんじ)』初編はこんな感じ
先日来,『偐紫田舎源氏(にせむらさき いなかげんじ)』を読んでいるが,雰囲気を伝えたいと思い,初編の内容を紹介してみる。
舞台は足利将軍家の邸宅,通称「花の御所」。
時の将軍,義正(よしまさ)公は,正室(北の方)富徽(とよし)の前との間に嫡男義尚(よしひさ)をもうけていた。
この頃,義正は花桐(はなぎり)という女性を寵愛していた。花桐は心優しく見目麗しく,病弱であったがそれがかえって義正の気に入り,ついには義正の子を身ごもった。
富徽の前に仕える腰元・昼顔は花桐のことが気に食わない。そこで,小菊,桔梗という二人の召使とともに花桐への嫌がらせを企んだ。
ある春の夜,花桐が腰元・杉生(すぎばえ)を伴って義正の寝所に行こうと廊下を歩いたところ,床には魚の内臓が巻き散らされており,着物の裾が汚れてしまった。杉生が着替えを取りに部屋に戻り,花桐が廊下で一人で待っていたとき,小菊と桔梗は廊下の出入り口の戸に鍵をかけて閉め,春とはいえまだ寒い夜の廊下に花桐を孤立させた。
しかし,部屋から戻ってきた杉生,そして花桐が寝所に来ないことを不審に思った義正はこの嫌がらせに気づき,花桐を救い出した。
翌日,義正は昼顔の部屋の方が寝所に近く,花桐が昼顔の部屋に移れば,花桐が廊下を渡らずとも寝所に来ることができると言い,花桐と昼顔の部屋を交換させた。その夜,何者かが昼顔の部屋(旧花桐の部屋)に侵入し,昼顔を刺した。昼顔は「さてはわらわが奸計洩れ,先を越して花桐めが,忍びを入れて害さすよな。殺さば殺せ女の一念,今に思い知らさん」と言い残して死んだ。
こういう後味の悪い怪事件があった後,月満ちて花桐は男子を出産した。この男子は次郎の君と呼ばれた。
次郎に対する義正の溺愛ぶりはただ事ではなく,家臣の中には富徽の前や義尚を差し置いて花桐や次郎に媚びるものが現れる始末。
次郎の袴着の儀が豪華に執り行われた際,「このままだと後継者争いが起こる」と富徽の前が義正に対して諫言したものの,次郎や花桐に対する義正の溺愛は留まることを知らなかった。
次郎6歳の夏,花桐は病を得,次郎を御所に置いて嵯峨野の実家に下がった。間もなく花桐は逝去。訃報を耳にした義正は大いに嘆き悲しんだが,禁裏の行事があるため,花桐の家に赴くことができない。代わりに杉生をお供に,次郎を嵯峨野に送った。
花桐の実家には花桐の母(後室(こうしつ))と腰元の刈萱(かるかや)がいるだけだった。後室と次郎とで花桐の死を悼んでいたところ,諸国を巡る修行者が屋敷の門前に現れた。後室は花桐の菩提を弔ってもらおうと修行者を呼び込んだ。弔いのついでに修行者が次郎の人相を見たところ,前代未聞の相であることが分かった。次郎は天下人の徳を持ちながら,天下人となった場合には世が乱れる恐れがある。しかし,天下人の後見となるならばその徳はあまねく行き渡り,繁栄するであろうという。
修行者は仏事の礼として一晩,この屋敷の仏壇の間の隣の小座敷に泊まることとなった。この小座敷は毎夜次郎が寝間としていたのだが,この晩だけ,次郎は別の部屋で寝ることに。
さて,夜中になり,仏間の隣の小座敷から修行者の悲鳴が上がった。後室が長刀をもって駆け込むと,そこには修行者の喉を懐剣で貫く刈萱の姿があった。後室と杉生が刈萱を取り押さえ,詰問したところ,刈萱は元は昼顔の配下にあった召使,桔梗であることがわかった。
桔梗は亡き昼顔の敵を討とうと,刈萱と名を変えて嵯峨野の屋敷に奉公し,花桐をつけ狙っていたのだが,花桐が亡くなり,狙いを次郎に変えたのだという。そして毎夜,次郎を手にかけようと機会を伺い,ついにこの夜決行した。しかし,寝ていたのは別人,旅の修行者だった。しかも,刺した修行者をよくよく見れば,刈萱の兄,泥蔵(どろぞう)だったというから,まことに不思議な運命。
「敵は討たで現在の,兄を殺せし此の身の不運,さァ御存分に遊ばせ」と悪びれもせず控える刈萱こと元桔梗。
一体,刈萱はどうなるのか,そして泥蔵って誰? 本家「源氏物語」の桐壺の巻と全然違うぞ,田舎源氏。 第二編を待て。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 紀蔚然『台北プライベートアイ』を読む(2024.09.20)
- 『ワープする宇宙』|松岡正剛に導かれて読んだ本(2024.08.23)
- Azureの勉強をする本(2024.07.11)
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
- トマス・リード『人間の知的能力に関する試論』を読む(2024.05.22)
コメント