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2015.12.18

日曜言語学者の憂鬱

「人生には,自分の知っていることを教える時期がある。しかし次に,自分の知らないことを教える時がやって来る。それを研究と呼びたい。」

ANAの機内誌「翼の王国」(2015年12月号)でジャコモ・モヨーリというワイン評論家が,フランスのある批評家の言葉として紹介していた。

小生は一応,建築設備だの,エネルギーマネジメントだの,商品開発だの,そういった領域の研究者として世を渡っているわけだが,趣味として言語学をやっている。

「知らないことを教える」という点では,言語学の方が小生にとっての研究らしい研究と言えるかもしれない。

ここ数年の間に読んだ本としては,イェスペルセン『文法の原理』(上・中・下)が最も面白かった。

文法の原理〈上〉 (岩波文庫)文法の原理〈上〉 (岩波文庫)
イェスペルセン 安藤 貞雄

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ただ,イェスペルセンは面白いことは面白いのだが,新しいか古いかというと古い。

イェスペルセンから後,言語学はチョムスキーによって一変してしまった。

で,あるから,チョムスキーをきちんと読もうと思って『統辞構造論』を読んでいるのだが,これがまるで数学かプログラミングの本のようで,とてもすらすらとは読めない。

統辞構造論 付『言語理論の論理構造』序論 (岩波文庫)統辞構造論 付『言語理論の論理構造』序論 (岩波文庫)
ノーム・チョムスキー 福井 直樹

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やはりこれが日曜言語学者の限界だろうなと思った。非常に憂鬱である。

『統辞構造論』の勉強は続けるとして,他になんか言語学で面白い本はないかと岩波文庫を探ってみたところ,ありました。コセリウ『言語変化という問題』。

言語変化という問題――共時態、通時態、歴史 (岩波文庫)言語変化という問題――共時態、通時態、歴史 (岩波文庫)
E.コセリウ 田中 克彦

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この本の日本語訳はもともと「クロノス」という出版社から出ていたのだが,そのタイトルは『うつりゆくこそことばなれ』だった。なぜそんなタイトルになっていたのかという事情は岩波文庫版の解説に書かれているのでここでは省略。

この本は,まず最初にソシュールをボコボコにしているので面白い。

ソシュールは言語を共時態(非歴史的・静的・構造)と通時態(歴史的)という二つの投影像によって取り扱うことを示したものの,結局,言語の共時態に拘泥し,「度を過ごして『歴史的研究』をさげす」んだ。

しかし,言語とはエルゴン(静的な完成品)ではなく,エネルゲイア(力・作用・活動)であり,変化し続けるものだ,というのがコセリウの主張である。

小生のイメージでは,ソシュールの言語観は平面上の閉じた円環で,コセリウの言語観は回転しつつ上昇する螺旋という感じである。

一頃は構造主義にはまっていたために,言語の非歴史性・構造といったものを信奉していた小生だが,この本を読んでいるうちに言語の歴史性もまた重要であり(コセリウは共時態を否定しているわけではない),変化こそが言語の本質という見方に変わってきた。

サルトルよりもレヴィ・ストロースを推していたのが,またサルトルに戻ってきた,という感じか?違う?


◆   ◆   ◆


コセリウはルーマニア人である。2002年に亡くなった。博覧強記の人であったというが,英語で論文を書いていないため,英語圏ではあまり知られていない。ウィキペディアでも日本語版英語版の記事よりもルーマニア語版の記事の方が充実している。

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