(日本では)知らざれる大作家トロロープ
「話題を変えよう」とカッスルは言った。「戦争と関係のない本を何か推薦してくれないか」
「それならトロロープがあります」とハリディは言った。「息子はトロロープの大ファンでして。あいつが売っているものからはなかなか想像できませんが」
(グレアム・グリーン『ヒューマン・ファクター』166ページ)
グレアム・グリーンのスパイ小説『ヒューマン・ファクター』を読んでいるとき,トロロープという作家の名前が登場した。小生にとっては初耳だが,イギリス人の間では知られているらしい。
アンソニー・トロロープ (Anthony Trollope)。1815年4月24日生まれ,1882年12月6日死去。ヴィクトリア朝の大作家である。
英文学者の間では知られているのだろうが,小生を始め一般の日本人には知られていない。なにしろ2015年11月23日現在,日本語版のウィキペディアには記事が無い。アマゾンで調べてみても,訳書は限られている。開文社出版から木下善貞による訳書が数冊出ている程度である。
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調べてみるとかなりの数の作品を発表しており,"Project Gutenberg"には77もの小説が収録されている。
もっとも人気がある作品は"The Way We Live Now"(『今を生きる』)のようだ。2001年にBBCのドラマにもなっている(よく見ると,主役を演じているのは「名探偵ポワロ」でおなじみのデビッド・スーシェやんか)。
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"The Way We Live Now"はヴィクトリア朝のロンドン上流社会を舞台とした風刺小説。オーガスタス・メルモットというユダヤ系銀行家を中心に据え,この時代の実業家・政治家・インテリたちがどれだけ貪欲さや不正直さに毒されていたのかということを描き出している(ということだ。小生は未読なので…)。
ためしに"The Way We Live Now"の冒頭を読んでみると…
Let the reader be introduced to Lady Carbury, upon whose character and doings much will depend of whatever interest these pages may have, as she sits at her writing-table in her own room in her own house in Welbeck Street. Lady Carbury spent many hours at her desk, and wrote many letters, --- wrote also very much beside letters. She spoke of herself in these days as a woman devoted to Literature, always spelling the word with a big L. Something of the nature of her devotion may be learned by the perusal of three letters which on this morning she had written with a quickly running hand. Lady Carbury was rapid in everything, and in nothing more rapid than in the writing of letters. Here is Letter No. 1; ---
という具合でさほど難しい文章ではない。だが,この作品,トロロープ作品の中でも最長で,100章もあると聞くと,とたんに読みたい気持ちが失せてしまう。
他のトロロープ作品をチェックしてみたが,いずれも長い。本にして3,4巻分あるものばかり。日本では長編小説に属する長さだ。
ひょっとしたらこの長さが日本人に受け入れられない理由なんじゃないかと思う。
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