サウジとカタール,ロシアのシリア内戦への介入に対抗措置
ロシアがアサド政権支援のための空爆をしていることをアメリカが非難しているが,この記事を読むと,アメリカはこの問題ではどちらかというと脇役であるという印象。
"Gulf states plan military response as Putin raises the stakes in Syria" (by Emma Graham-Harrison and Saeed Kamali Dehghan, the guardian, Oct. 4, 2015)
"Russia's bombing of rebel positions has angered countries in the region that have been trying to oust Syria's President Bashar al-Assad. Analysts say Saudi Arabia, Qatar and Turkey are now likely to increase military aid to the anti-Assad groups they support"
ロシアがISIS攻撃を名目として他の反政府勢力の拠点にも爆撃をしていることに対し,サウジアラビア,カタール,トルコが怒っており,反政府勢力の支援を強化するという話。
ご存じのとおり,シリア内戦は様々な要素が複雑に入り乱れている。
日本ではISISの脅威が強調されるが,中東諸国にとってはアサド政権を倒せるか否かという側面の方が重要である。
中東ではシーア派の大国イランとスンニ派(というかワッハーブ派)の大国サウジアラビアが勢力争いを続けているという構図があり,両勢力がぶつかっている最前線がシリアとイエメンの2か国である。
シリアのアサド政権はアラウィー派で,特殊な派閥だがシーア派の一派として数えられることが多い。シリアは内戦中ではあるがイランの影響下にあり,イエメンはサウジアラビアの影響下にあるとみてよい。
アサド政権が倒れれば,サウジアラビアはシリアを勢力圏に加えることができる。だからシリアの反政府支援をやめるわけにはいかない。
ところがここに来てロシアがアサド政権の積極的支援に回った。サウジアラビア(そしてカタールやトルコ)にとっては大きな躓きである。
だが,アサド政権のバックにイランの影が見え隠れする以上,このゲームを降りるわけにはいかない。サウジアラビアを初めとする国々によって反政府勢力支援が強化されるだろう。場合によっては最新鋭兵器が供与され,シリア内戦はエスカレートする可能性がある,というのがガーディアン紙の見方である。
可能性は低いが,ロシアとサウジアラビアの間で話し合いが成立すれば,解決の糸口が見つかるかもしれない。ロシアがイランを退けてアサド政権をコントロールするようになれば,サウジアラビアも少しは納得するかもしれないからである。
だが,そもそも,両者が同じテーブルにつく可能性があるだろうか?仲介する国が存在しない。
かつて,この地域のごたごたに対してはアメリカが積極的に介入し,半ば強引に仲介の労をとっていたことがある。しかし,現在のアメリカはモンロー主義へと回帰している。シェールガス・シェールオイルの開発によりエネルギーの自給体制を整え,中東への興味を失いつつある。アメリカがシリア内戦の解決に積極的に乗り出す可能性は低くなっていると思う。
この問題に真剣に取り組む可能性があるのは,シリア難民の問題が深刻化しつつあるヨーロッパ諸国ぐらいだろうか?
ついでに。
ガーディアンの記事には出てこないが,昨年7月から始まった「第二次逆オイルショック」は,サウジアラビアによるロシアとイランへの攻勢であるという話もある。それが本当であれば,シリア内戦に決着がつかない限り,原油価格の下落は継続することだろう。
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