中国史の時代区分
中国史に限らないのだろうが,時代区分をどのように設定するか,ということは中国史をどのように認識しているのかを如実に表す重要な作業である。
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宮崎市定以前には3分法というものがあった。
<戦前・守屋美都雄ほか>
古代: 上古~戦国末
中世: 秦漢~明末
近世: 清初~現代
<戦前・内藤湖南ほか>
古代: 太古~後漢
中世: 後漢~五代
近世: 宋以後
<戦後・唯物史観>
古代: 上古~唐末
中世: 宋~明末
近世: 明末~現代
これらのうち,真ん中の内藤湖南説では,太古から後漢までを古代とするが,これは漢,すなわち古代帝国の成立と維持を古代の歴史的潮流の頂点とする考え方である。西洋史においてローマ帝国を古代の頂点としているのと同じ考え方である。そして,中世を貴族制度の時代,近世を庶民勢力の台頭の時代としてとらえ,時代を区分している。
これに対し,戦前の守屋美都雄らによる3分法では皇帝制度の成立と発展維持の期間を中世としている。清朝以後に関しては西洋の影響が加わっているので近世。しかし,この区分法では中世が長すぎるという問題がある。
唯物史観は労働制度による区分法である。古代は奴隷制度,中世は農奴制度,近世は自由労働制度という考えに基づいて時代区分を行っている。この枠組みでは例えば唐の佃戸は農奴ととらえられている。しかし,宮崎市定が指摘するように,唐律によれば佃戸は小作人に近く,契約によって労働に当たる者である。また唐代には他に奴婢,部曲という身分があり,奴婢は奴隷,部曲は農奴に比定される。つまり唯物史観で中世とされる時代には複数の労働制度が混淆しているわけで,単純に労働制度によって時代を区分することはできない。
というわけで,上述の3つのうち2つの3分法にはいろいろと難がある。これらの3分法に対し,宮崎市定は4分法を唱えている。すなわち,
<宮崎4分法>
古代: 太古~漢代
中世: 三国~唐末五代
近世: 宋~清末
最近世: 中華民国以後
基本的には内藤湖南の3分法を継承している。ただし,西洋文化の衝撃を踏まえ,清と中華民国との間に区切りを設けるという考え方である。
宮崎史観では,経済や権力のダイナミズムが重視される。
古代というのは,バラバラだった中国の都市国家が次第に統一され,経済活動が一層盛んになる求心的傾向が見られる時代のことである。中世というのは中央政府が弱まり,皇帝と貴族たちとが強調したり対立したりを繰り返す,遠心的傾向が見られる時代のことである。この遠心的傾向が再び求心的傾向に転じるのが宋代以降の近世である。
本書ではなく,『大唐帝国』という宮崎市定の著した別の本には,宮崎史観を如実に表す概念図が示されている。
宮崎市定は中国歴代王朝の経済活動の状況を「景気」と呼び,それをグラフ化したものを「中国史上景気循環概念図」と名付けて同署に掲載している(『大唐帝国』,431ページ)。
「中国史上景気循環概念図」を書き直したものを下に示す(20世紀以降の状況は小生が独断と偏見で書き加えた)。
「中国史上景気循環概念図」(宮崎市定『大唐帝国』,431ページに基づく。20世紀以降加筆)
この図によれば,中国史の中世とは大いなる景気の谷間の時期である。群雄割拠して人々が不安に苛まれていた時代であり,経済活動も一進一退であったというわけである。
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