アイヌに会うための旅:松浦武四郎とイザベラ・バード
昨日,探検家イザベラ・バードを主人公とする漫画,佐々大河『ふしぎの国のバード』について書いた。
この作品の中における,バードの旅の動機の一つは「消滅しつつある江戸文明を記録する」ことだが,それに加えて「アイヌに会う」こともまたバードを突き動かしていた強力な動機であった。
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バードの『日本奥地紀行』(原題"UNBEATEN TRACKS IN JAPAN")では多くの紙数を割いて,蝦夷地の様子,アイヌ(Aino)の人々の生活が描かれている。
バードはアイヌたちに相当惚れ込んでいたようで,あるアイヌの男性(純粋なアイヌではないようだが)についてこのように述べている。
"I think I never saw a face more completely beautiful in features and expression, with a lofty, sad, far-off, gentle, intellectual look, rather that of Sir Noel Paton's "Christ" than of a savage. His manner was most graceful, and he spoke both Aino and Japanese in the low musical tone which I find is a characteristic of Aino speech. These Ainos never took off their clothes, but merely let them fall from one or both shoulders when it was very warm." (LETTER XXXV, GINSAINOMA, YEZO, August 17., "UNBEATEN TRACKS IN JAPAN", ISABELLA L. BIRD)
アイヌに魅せられていたのはバードだけではない。それ以前にも松浦武四郎という幕末の探検家がいた。
ドナルド・キーンは『百代の過客〈続〉』の一章を割き,アイヌに深い愛情を抱いた松浦武四郎のことを紹介している。
松浦武四郎は弘化元年(1844年)以降,6回にわたりアイヌの手を借りながら蝦夷地を探検し,ついには択捉島や樺太まで踏破した。
松浦武四郎の残した蝦夷地の記録には『後方羊蹄<しりべし>日誌』『石狩日誌』『夕張日誌』『十勝日誌』『納沙布日誌』『知床日誌』『北蝦夷余誌』等があり,江戸の人々にアイヌの素晴らしさを伝えている。
実はドナルド・キーンは松浦武四郎について述べたこの一章の中で,先に触れた『日本奥地紀行』の一節を引いてバードがアイヌの魅力に「いかれて」いた有様を描いている。幕末と明治とで時間の差はあれ,バードも松浦武四郎もアイヌの魅力に捕らわれてしまったという点では同じである。
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つい先週,NHKの「歴史秘話ヒストリア」で松浦武四郎の生涯が紹介されていた。松浦武四郎こそは「北海道」という名称の名付け親であった。「北海道」の「海」とは,アイヌ語の「カイ」,すなわちアイヌの国のことだったとは,この番組で初めて知った。
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