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2015.05.29

小説・漫画の映画化を擁護する

小説や漫画が映画化されたとき,よくある言説が「原作ぶち壊し」や「イメージと違う」という批判である。原作を絶対視するならばそういう批判が出ることは必然的なものだろう。

だが,まあちょっと待ってほしいという映画化擁護論をアンドレ・バザンが「不純な映画のために」(『映画とは何か(上)』所収)という論考の中で述べている。

「……きっと原作に新しい読者をもたらすだろうと考えられるかぎりにおいては,この映画を否定するべきではない。文学の傑作がスクリーンで被った被害に対して怒ることは――少なくとも,文学の名において怒るのは――馬鹿げている。なぜなら,脚色がどれほどいい加減なものであろうとも,それは原作を知り評価している少数派にとって原作を害するものとはなりえないからだ。原作を知らない観客にとっては,ふたつにひとつである。つまり彼らは他の映画と比べてそれほど劣るわけでもないその映画に満足するか,あるいは元となった本のことを知りたくなるかであり,その分だけ文学にとっては得をしたことになるわけだ。こうした理屈はあらゆる出版の統計によって確かめられている。映画化された文学作品は売り上げが急上昇しているのである。実際,文化全般,とりわけ文学はこの種の企てで何も失うものはないのだ。」(『映画とは何か(上)』156~157ページ)
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確かにねェと思う。ある原作付き映画が「原作ぶち壊し」の様相を呈することはあるかもしれないが,原作は原作として厳然と存在しており,映画の不評によって原作の価値が毀損されることはないだろう。

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コメント

原作ファンというものはすでに原作たる作品をすでに知り、そこで100%の満足を享受しているわけで、それを忠実に2次創作したとしても一度経験した満足を再度薄められた形で味わうことにしかならないと思うのです(たとえ異なるメディアであったとしても)。それは子供が既知の物語を何度も聞きたがるのに似ていないでしょうか?
さて、その一方で原作に完璧に忠実な2次創作なるものは原理的に存在しえず、何らかの加工や編集が必然的に行われるものと考えるならば、程度の差こそあれ原作ぶち壊しは避けられない宿命と思い、全面的に拒否するか開き直って別の楽しみを楽しむかということになるのですが、ここで気にしておきたいのは「原作を大胆に脚色した作品だが、原作の持っている精神は活き活きと反映されている」式の評価の仕方であります。「そうはおっしゃいますが、これ全然別モノなんですよ」と言いたい気持ちがあるのですね。バザンが「脚色がどれほどいい加減なものであろうとも」と言っているところに注目したいです。2次創作のA級B級に関係なく、そこには自律性があると言ったら考え方古臭いかな。少なくともここではバザンは原作(ここでは映画に対する文学)の優位性を言っているように思わせながらその実、「シェークスピアの素晴らしさは大いに認めるが、ハムレットを原作にしたB級犯罪コメディ映画があれば私は大いにそれを楽しみたい」と言っているのだろうなと理解しました。

投稿: 拾伍谷 | 2015.05.31 02:18

バザンの時代,映画は誕生してから半世紀ほどしか経過してない若い芸術で,「第七芸術」と呼ばれている状況だったわけです。バザンとしては小説や演劇よりも一段低く見られていた映画を強く擁護する論陣を張る必要性があったのだと思います。とはいえ,「演劇映画(フィルム・ダール)」のように演劇の映画化を目論みつつ,全くの失敗に終わった映画群もあるわけで,それらについてはバザンは手厳しい評価を下しています。
幸いにもバザンの活躍した頃には,オーソン・ウェルズの『マクベス』やローレンス・オリヴィエの『ヘンリィ5世』のような映画が登場し,わざわざ原作付き映画の擁護を図らなくても良くなってくるわけです。

投稿: fukunan | 2015.05.31 18:05

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