吉田類『酒場詩人の流儀』を読む
暑いプノンペンに居ながら,吉田類のエッセイ集『酒場詩人の流儀』を読んでいる。
この国,カンボジアは偉大なるクメール王朝の歴史を有してはいるが,数十年前に破壊しつくされ,一から立て直しをしている,実際にはとても若い国だ。
そのためか,日本人の目から見ると,日常生活に詩情が欠けているような気がする。
『酒場詩人の流儀』の一節を読んでから,現実のプノンペンに意識を戻すとそのようなことをを強く感じる。
これが建設ラッシュに沸き,交通渋滞に見舞われているプノンペンから離れて,遠く農村部に移れば,熱帯なりの別の情感が沸いてくるのかもしれないが。
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BS-TBSの人気番組「吉田類の酒場放浪記」を見ている限りは,口の回らない酔っぱらいのおじさんにしか見えないのだが,その頭の中ではこんなことを思いめぐらせていたのだな,という新鮮な驚きを感じるのが本書『酒場詩人の流儀』である。頻繁に山歩きをするなど,かなりのアウトドア派。本書を読んで今まで誤解していたことが判明した。本当に失礼いたしました。
文章がとても良い。ハンターたちと冬山を巡る話など,マーリオ・リゴーニ ステルン『雷鳥の森』を思わせる書きぶりだった。また,エゾヒグマのDNAタイプについて触れたり,草木虫魚に関する知識を嫌みのない範囲で披露するところは,松岡正剛『千夜千冊』のアウトドアバージョンという感じがする。吉田類の方が松岡正剛よりは5歳若いが。
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吉田類にとって人生は未知の海原に漕ぎ出す船旅であり,その船の名は「忘却号」という。
記憶が蓄積され続ければ,船は重みに耐えかねて沈んでしまう。適度な忘却によって船は軽さを維持し,新たな出会いへの航海を続けることができる。
本書の帯には吉田類の俳句が添えられている
「グッバイを鞄に詰めて冬の旅」(吉田類)
于武陵の
君に勧む金屈巵(きんくつし)
満酌辞するを須(もち)いざれ
花発(ひら)けば風雨多し
人生別離足る
の系譜に連なる秀句だと思う。そういえば,于武陵の漢詩の後半を井伏鱒二が
花ニアラシノ例エモアルゾ
サヨナラダケガ人生ダ
と訳していたが,この表現の方がずっと近い。
古来より酒と詩とはとても相性が良い。相性が良すぎて命を落とした詩人もいる。伝説によれば,李白は酔っぱらって,川面に映った月を取ろうとして溺死した。
吉田類もどこかの大衆酒場で人生を閉じるのでは……という不気味な予感が脳裏をよぎる。いや,本人はそう望んでいるのかもしれない。
兎も角も,酒と俳句とを友にして吉田類の旅は続く。
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