村井吉敬『インドネシア・スンダ世界に暮らす』を読む
カンボジアに居るのにもかかわらず,インドネシアに関する本を読んだ。
インドネシア経済・現代史の専門家で,2013年3月に亡くなった村井吉敬(むらい・よしのり)のデビュー作である。
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1975年2月,村井吉敬とその妻・内海愛子はインドネシアのバンドンでの生活を始めた。2年間のバンドン留学の始まりである。村井吉敬はパジャジャラン大学に籍を置きつつも教室外に飛び出し,インドネシア,主としてスンダの人びととの交流を深めた。そんな生活の中で見聞きし,考えたことを綴ったのが本書の大半を占める『スンダ生活誌――変動のインドネシア社会』である。
『スンダ生活誌』は1978年にNHKブックスとして刊行され,今回,本書『インドネシア・スンダ世界に暮らす』に採録された。
本書の最後には20ページほどの『パシコムおじさんの見たスハルト独裁』という文章が掲載されている。新聞「コンパス」紙のヒトコマ漫画を通して描かれた,スハルト登場からユドヨノ大統領就任までのインドネシア現代史である。
小生は毎年のようにバンドンに出張しているので,バンドンを中心としたスンダ人の世界について書かれた,この本を読むのは楽しかった。日本・東南アジア関係史の権威である後藤乾一による解説を含めて320頁を超える文庫本だが,すんなりと読めた。
著者が暮らした1975年頃と現在とではバンドンの社会・経済状況は大きく異なるが,それでも変わらない部分というのはある。
行商人の多さ,スンダ美人,「ゴムの時間」と称する時間にルースな感覚。これらは今も変わらない。
↑現代のスンダ美人
変わったものもある。「ベチャ」「コルト」「ホンダ」と呼ばれる交通機関は今ではタクシーや「アンコット」と呼ばれるものに変わった。
「ベチャ」というのは三輪の人力車であり,「コルト」とか「ホンダ」というのは小型の乗合自動車のことである。今では「ベチャ」は無い。「コルト」とか「ホンダ」というのが現在の「アンコット」に対応すると思う。
↑バンドン市民の足,アンコット。緑色に塗られていることが特徴
1970年代のスンダの民衆は貧しいが,したたかでもある。日本人だからと言うことで著者から町内会の会費を多めに徴収する隣組組長がいたり,著者の家で自分の分の弁当をちゃっかりと作って自宅に持ち帰る家事手伝いの少女がいたり。
そういう民衆のしたたかさについて著者はこう述べている:
「長いものに巻かれながらも,多少なりとも自分たちの利益になりそうな可能性を選び取ってゆくのが民衆であろう」(村井吉敬『インドネシア・スンダ世界に暮らす』105頁)
著者が暮らした時代からすでに数十年が経過し,民主化や経済発展があり,インドネシア全体が豊かになってきた。とはいえ,依然として経済格差は大きい。バンドンに行くたびに,貧しい人々は今もなお,貧しいながらも,したたかに生き抜いているのを感じる。つり銭ごまかされるし,タクシーでボられるし(^-^;
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