井筒俊彦生誕101年目に,初期著作『マホメット』を読む
井筒俊彦といえば,イスラーム学の泰斗であり,日本人がイスラームについて学ぼうとすれば,どこかでこの人の名を目にすることになろう。
井筒俊彦は第1次大戦の始まった年,1914年5月4日の生まれであり,今年は生誕101年目にあたる。
ちなみに,折口信夫の生涯に詳しい人であれば,折口の弟子であった加藤守雄や池田彌三郎と井筒俊彦が慶應義塾大学経済学部予科の同級生であったことも知っているかも知れない。加藤守雄や池田彌三郎が文学部国文科に転じて折口に師事したのとは違って,井筒俊彦は文学部英文科に転じ,西脇順三郎に師事することとなったものの,折口からも影響を受け続けたようである。
話が脇に逸れたので,元に戻す。
最近,日本も含め,世界各地でイスラム(イスラーム)過激派の問題が持ち上がっている。今ほど,イスラームについての知識が要求されている時代は無く,今ほど,この101年前に生まれた碩学の著作が重要性を帯びている時代は無いと思う。
ということで,昨日から井筒俊彦の初期著作『マホメット』(講談社学術文庫)を読んでいる。
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十数年前に一読した後,小生の本棚で休眠していた本である。わずか100ページ余りの小冊子であるが,今,再読してみると,なぜイスラームが砂漠の民に必要とされたのか,なぜ世界宗教となったのか,なぜ兄弟宗教とでもいうべきユダヤ教やキリスト教と決別したのか,ということがよくわかるようになる。
この本の特徴はイスラーム成立前の時代,「無道時代(ジャーヒリーヤ)」の砂漠の民の精神構造を多くの詩の引用によって明らかにしているところにある。「無道時代(ジャーヒリーヤ)」の記述に本書の半分が費やされ,なかなかマホメット(ムハンマド)が登場しない。だが,そうやってイスラーム成立の前史を詳述することによって,イスラーム誕生の文化的土壌,イスラームの必要性,特色が明確になっている。
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