森鴎外『椋鳥通信』を読む
先月半ば,森鴎外の『椋鳥通信』(上)が岩波文庫に入ったというので買ってきた。今,読んでいるところであるが,面白い。
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『椋鳥通信』というのは,森鴎外,石川啄木,木下杢太郎,北原白秋らが発行していた文芸誌「スバル」に明治42年/1909年3月から計55回に渡って連載された,海外ニュース欄である。
ヨーロッパの新聞・雑誌から収集した雑多な情報を手短に報告している。一つ一つのニュースは数行程度の「短信」といった感じで,今ならばツイッターに近い。
ツイッターをまとめてブログ程度の長さにしたものを毎月「スバル」誌上で発信していたのである。鴎外発ツイッター。1909年3月12日発の記事から一部分を抜き出してみる:
○二月二十二日にはCharlottenburg〔シャルロッテンブルク〕でFriedrich Spielhagen<フリードリヒ・シュピルハーゲン>が八十の誕生日を祝った。首相も賀客の中に見えた。○二月二十四日には巴里の女優Irene Muza<イレーヌ・ミュザ>が酒精のはいっている水で髪を洗わせていて,その水に火がうつったので大火傷をした。○今年の春から夏にかけての巴里の流行色はBleu electric〔緑がかった青〕である。緑を帯びた青で,濃淡はいろいろある。伯林では青い男の帽がはやる。(『椋鳥通信』(上)25ページ)
実に淡々と,しかし要約の名手として知られる森鴎外らしい簡明な文体で海外のニュースが伝えられている。
編注者である池内紀が巻末に付した解説によると,鴎外はドイツ留学中から新聞・雑誌を読むのが好きだったようである。この楽しみを活かしたのが『椋鳥通信』である。
ちなみに鴎外によるこれらの海外ニュースは,当時としては日本で最も早いニュースだったらしい。
池内紀の推測によれば,鴎外が海外情報を手に入れるのが早かった理由は2つあるようだ。
ひとつはシベリア鉄道の利用。シベリア鉄道ができる前は,ヨーロッパから日本まで人や物が移動するのに一月半程度かかっていたのが,シベリア鉄道によって,二週間程度に短縮された。
もうひとつは,ドイツ系通信社ヴォルフの存在。陸軍軍医総監の立場からヴォルフ通信日本支局長を呼び出すのは容易だっただろうと編注者は想像している。
先ほど海外情報を淡々と伝えている,ということを書いたが,鴎外もときどきアツくなることがあったらしく,例えば,イタリアの詩人マリネッティが「未来主義(Futurismo)」を宣言した時には,宣言文の全てを訳出し,数十行にわたってこの運動を紹介している。
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コメント
これ良いですよね。肩ひじ張らない三面記事がたくさんあって西洋文化通信と言った趣。
椋鳥通信や、講談社文芸文庫がやってる全集月報集など、ちょっと読みたいなと思っても図書館いかなければ読めない作品が文庫で読めるようになるのはうれしいですね。青空文庫にも入ってないし企画力の勝利って感じでしょうか。
投稿: 拾伍谷 | 2014.11.14 21:42
追伸
鴎外令嬢森茉莉の「ドッキリチャンネル」を思い出しました。あれも傑作ですね!
投稿: 拾伍谷 | 2014.11.14 21:50