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2014.11.18

ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン(上)』を読む

だいぶ前に出て評判になった本,ナシーム・ニコラス・タレブ(略してNNT)の『ブラック・スワン』を図書館で借りてきて,ここ数日読んでいる。

実証的懐疑主義者を自称するナシームは,限られたデータによって社会経済の予測を行うことの危険性について(人を食ったような語り口で)語っている。

とりあえず上巻を読み終えたところだが面白い。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
ナシーム・ニコラス・タレブ 望月 衛

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ブラック・スワン/黒い白鳥」というのは外れ値,予想されずに起こる重要な現象である。911のテロもその一つだし,この本が書かれた頃には発生していなかった東日本大震災もその一つである。

ナシームはわれわれの周りの環境を2分する。「月並みの国」と「果ての国」だ。「月並みの国」は物理法則に縛られた環境,「果ての国」は物理的制限のない環境を指す。我々が住んでいるこの世界は今や「果ての国」に属する。そして「果ての国」では時折ブラック・スワンが舞い降りて人々を振りまわし,あらたな状況を生み出す。

数世紀前の世界は「月並みの国」だった。おおざっぱに言って富の量は耕作可能な土地の広さで把握できた。コンピュータやインターネット(これら自体もブラック・スワンである)が普及した現在の世界は違う。ネット上の富には物理的制限はない。ビル・ゲイツやザッカーバーグを見ればいい。彼らの富に匹敵するほどの富を得た王侯貴族が数世紀前にいただろうか?そしてまた彼らの登場と「一人勝ち」を誰が予想できただろうか。我々にできるのは,後づけの決定論による解釈であり,しかもその解釈は後々,別のブラック・スワンの登場によって否定されてしまう。

社会経済(とくに金融)の現象はおしなべて「果ての国」に属している。この国の中で予測を行うことの愚かさについてナシームは語っている。

ヒュームが語ったように,過去の出来事をいくら積み上げても,因果関係を明らかにすることはできない。経験則は突然現れたブラック・スワンによって突き崩される。

まぐれが支配する環境であることを知ってか知らずか,経験則に基づいて経済予測や市場予測をしてお金を得るのは職業倫理にもとることだとナシームは非難する。ナシームのデータによればプロの経済予測の精度は素人の経済予測の精度とたいして変わらないらしい。

「予測という営みには最初から構造的に組み込まれた限界がある」(『ブラック・スワン(上)』245~246頁)

にもかかわらず,我々は経験的(帰納的,ヒューリスティック)思考によって未来を予測してしまう。ナシームによれば,これは世界が単純だったころ(「月並みの国」だったころ)の遺産のようだ。

本書(上巻)では,ナシームは行動経済学経済物理学の成果を踏まえて,ブラック・スワンを無視しがちな我々の行動特性を描き出している。

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コメント

黒い白鳥は突然この世にあらわれたのではなく昔から黒かったわけです。私たちが気付かなかった、前に見たけど(意図的に)忘却していただけと言うこと…

ヒュームが経験論の泰斗であり同時に経験論の限界を示していたことはおっしゃる通りと思います。
ただし世の中そこまで本質的な議論に触れる以前の事例、ある利害関係に沿う形で経験則を捻じ曲げている人が多くみられるようにも思うのです。

「黒い白鳥なんて想像すらできなかった!」…いやいや、あなたは知っていたでしょ、知っていてそのことを隠していたのではないのですか…みたいな事例、ありますよね。
都合の良い結論が得られるように推論を組み上げれば、そりゃ都合の良い結論だけが得られるに決まっています。どうもそんな話があちこちで繰り返されているように思うのですが、いかがでしょうか。

投稿: 拾伍谷 | 2014.11.19 14:57

貴兄のコメント,よく理解できます。

ヒュームの問題や予測不可能性の問題といういわば高尚な議論以前に,利害が絡みの作為によって,経験則ですらゆがめられて利用されているということですね。

ナシームの議論ではそういった作為・嘘といったものは脇に置かれています。だからエンロンのような話は出てきません。

ナシームはトレーダーなのですが,それは他人に振り回されずに認識論等の研究を進めるための資金稼ぎだと言っています。ナシームは,愚行についてはいろいろと述べますが,悪意については語ることすらしたくないのかもしれません。

投稿: fukunan | 2014.11.20 12:49

個々のトレーダーが様々な利害に基づいて行動していても、市場総体として巨視的に見ればそこに悪意や嘘はなくなり、ゆえに予測可能性と不可能性(ブラックスワン)の問題が出てくる。ナシームが議論しているのはこちらの方でしたね。

私の話はある経済学者、学説、ある企業、ある行政機関、こうした現場における予測議論の恣意性についてでした。

両者をやや混同した物言いになっておりましたら申し訳ない。記事に対するコメントとしてはちょっとピンボケでした。

投稿: 拾伍谷 | 2014.11.20 19:31

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