林田憲明『火山島の神話』を読む
先日,御嶽山が噴火し,我々に日本が火山列島であることを思い出させた。
本書『火山島の神話』は御嶽山噴火よりも数か月前に刊行された本であるが,時宜を得たものであると思う。
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『火山島の神話』は『三宅記(みやけき)』と呼ばれる伊豆諸島の神話・伝承の全訳と解説をまとめたものである。
『三宅記』の成立時期には諸説あるが,著者は室町時代(文明年間)に成立したものと推定している。ここには,薬師如来が三島神に姿を変え(本地垂迹),焼き出し(噴火)によって伊豆諸島を生み出したという「噴火造島神話」が語られている。そしてまた,三島神を中心とする神々の序列,祭祀,支配者である壬生氏の位置づけが述べられている。
伊豆諸島は平安初期に次々と噴火をした(838(承和5)年神津島天上山,886(仁和2)年の新島向山。三宅島は記録にあるのは1085(応徳2)年のものが最古でそれ以後は約50年おきに噴火)。三島神による噴火造島のイメージはこれらの出来事がもとになっていると考えられている。
「火の民族仮説」を中心に据えた,星野之宣『ヤマトの火』や『ヤマタイカ』を読んだ時のような興奮が蘇る。
『三宅記』については成立時期だけでなく,制作者や制作意図についても様々な謎があるのだが,著者は地理学・歴史学に基づく綿密な論考によって,その解明に挑戦している。
著者は元東京都庁の職員で,1970年代に三宅島など伊豆諸島で勤務した経験を持つ。このような刺激的かつ浩瀚な書物を世に送り出すことがあるから,市井の研究者はあなどれない。
未知谷という出版社は時々驚くような本を出す(参考:【この日本語がすごい】吉野せいアンソロジー『土に書いた言葉』)が,本書もそうした一冊である。
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