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2014.09.28

やってくれたな! 鳥居哲男『折口信夫&穂積生萩 性を超えた愛のかたち』

「やってくれたな!」というのは本来,スベらされた時の上島竜兵のセリフであるが,小生は奇襲攻撃を受けた気分でこの言葉を使いたい。

今月出た鳥居哲男『折口信夫&穂積生萩 性を超えた愛のかたち』はいきなり折口信夫の人物研究の本丸に切り込んだかのような本である。

折口信夫&穂積生萩―性を超えた愛のかたち折口信夫&穂積生萩―性を超えた愛のかたち
鳥居 哲男

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(アマゾンでは中古本として倍以上の値段で販売されているが,小生は広島の丸善ジュンク堂で定価2700円+税で購入した。)

鳥居哲男氏は『清らの人 折口信夫・釈迢空 「緑色のインク」の幻想』(沖積舎,2000年)によって,従来とは違った角度から折口信夫の人間像を浮かび上がらせた。同書の第8章「秘められた女性への愛」では,家族以外で折口信夫に影響を与えた女性として許嫁の上野ひでと女弟子の穂積生萩とを取り上げている。

清らの人―折口信夫・釈迢空 「緑色のインク」の幻想
清らの人―折口信夫・釈迢空 「緑色のインク」の幻想
鳥居 哲男

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上野ひでについてはすでに昨年の記事「中川曠人『相聞 折口信夫のおもかげびと』を読む」(2013年9月29日)で取り上げたのでここでは簡単に触れるだけとする。

折口信夫に関しては,とかく女性嫌い・同性愛者であったことが強調されるが,そんな単純な枠組みではとらえられないということを,元許嫁・上野ひでの息子,中川曠人(上原曠人)『相聞 折口信夫のおもかげびと』(花曜社,1985年)の中で明らかにしている。

相聞―折口信夫のおもかげびと相聞―折口信夫のおもかげびと
中川 曠人

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鳥居哲男は『清らの人』の中で,この本のことを


「精密に資料を掲げ,細やかな配慮で推理が進められていて,情愛深い,見事なサスペンスのような内容」(『清らの人 折口信夫・釈迢空』,212頁)

と評しているが,まさにその通りの本である。


そして今回,開山堂出版から出た『折口信夫&穂積生萩 性を超えた愛のかたち』はもう一人の重要な女性である穂積生萩の視点から折口信夫の人物像に迫った衝撃的な本である。

内容は幻の書と呼ばれ穂積生萩の著作『私の折口信夫』のダイジェストとそれに対する詳しい解説で構成されている。穂積生萩も鳥井哲男の取材に応じており,本書に序文を寄せているが,その序文がこれまた衝撃的である。

「序文 折口信夫の全裸を見た    穂積生萩」

!?

どういう内容かはここでは書かない。だがぶっ飛んだ内容だ。「こんなことを書くと,折口門下の偉い先生たちに半殺しの目に遭うかもしれない,という恐怖がまだ私にはある」とこの序文の中で穂積生萩は述べる。

そう。穂積生萩は折口信夫の門下生の間からは追放もしくは無視される立場にある。『私の折口信夫』が幻の書となっている理由はそこにある。

本書のプロローグでは『私の折口信夫』が再刊されないままとなっている事情なども詳しく書かれている。


近年の折口信夫研究は安藤礼二富岡多惠子によって主導されており,とくに若いころに出会った藤無染の影響を軸に『死者の書』など折口の作品群の意味を読み解く試みがなされている。

折口信夫の青春折口信夫の青春
富岡 多惠子 安藤 礼二

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そういった主流からすれば,上野ひで,穂積生萩らを中心に据えたアプローチは無視されていくのであろう。

だが,読者はいる。すでにここに。

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コメント

いつも温かいご高評、ありがとうございます。
よく読み込んでいただいて、的確なご指摘をいただき、感謝申し上げます。アナログ人間ですので、これまでネット検索ができませんでしたが、ようやく、おぼつかない手つきでパソコンを操れるようになりました。「椅子は堅いほうがいい」を嬉しく拝読し、勇気と希望を持たせていただきました。
また、広島でご購入いただいたことを知り、首都圏ばかりでなく、全国的に配本されているのだと嬉しく思いました。これを書店で見つけて買ってくださる方は、そういらっしゃいません。これからもよろしくお願い申し上げます。

投稿: 鳥居哲男 | 2014.10.12 11:07

鳥居哲男様

著者ご本人にコメント頂けるとは思ってもおらず,大変驚いております。

『清らの人』は折口信夫の人間像に新たな視点を与え,新たな光を投げかけるもので,小生の視野が一気に広がったような気がしました。

昨年来,折口信夫没後60年ということで折口に関する本がいろいろと出版されており,小さなブームが起こっていると思います。そのにぎわいの中で,『折口信夫&穂積生萩 性を超えた愛のかたち』が上梓されたことは,折口没後61年に入ってからの一大事件だと思います。

同書のエピローグによれば『清らの人――その女弟子』をリスタートしたいとのお話も出ていました。プレッシャーをかけるようですが,今後も耳目を驚かすような本を読ませていただきたいと思います。

投稿: fukunan | 2014.10.13 12:42

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