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2014.07.01

グノーシス主義が我々に突きつけるもの

今日も大貫隆『グノーシスの神話』の話題。

グノーシスの神話 (講談社学術文庫)グノーシスの神話 (講談社学術文庫)
大貫 隆

講談社 2014-05-10
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本書の「結び グノーシス主義と現代」では,ニューエイジ運動や「終わりなき日常」とグノーシス主義との関係,つまりグノーシス主義の現代的意義が検討されている。

グノーシス主義では人間は神の一部であると主張しており,70年代以降のニューエイジ運動の人間観との間に類似性が見られる。

しかし,グノーシス主義が世界を悪と見て拒絶するのに対し,ニューエイジ運動では世界と人間が調和するものと見ているという点で,大きな違いがある。著者の見方では,ニューエイジ運動の世界観は,むしろグノーシス主義とは対極にあったストア哲学の世界観に近いということである。

グノーシス主義の「世界拒否」の姿勢は,ニューエイジ運動よりも別のところに見出されるという。それは「終わりなき日常」(by 宮台真司)に生きる,現代女子高生の中に…というのがユング心理学者・入江良平の説である。

売春などに走る現代女子高生たちは「汚れ」てはいても「世界を受容していない」。その意味でイノセントな存在である,というのが入江説である。本書の著者はこの入江説を楽天的過ぎるとして,現代女子高生たちを過去のグノーシス主義者たちと並列することに否定的である。

本書の著者は,グノーシス主義者たちはもっと深刻で真剣だったと主張する。

グノーシス主義者たちは「自分自身の中に一つの破れを垣間見て震撼し,そこに悪の起源を見た」(本書316頁)ことを神話の形式で語っているのである。

グノーシス主義者たちは「悪の存在は他でもない自分自身の中に,自分が意識の主体と客体に分化したことに淵源する」(本書317頁)ことを理解する。

そして,「その分化のゆえに生み出される悪と欠乏の世界に落下し,そこで本来の自己と非本来的な自己の間の分裂にまで沈んだ後,やがてその本来の自己について『我即神也』が成り立つことを『認識』して,その本来の自己に回帰するという一つの大きな円運動」(本書317頁)を通して,自己の回復を行っているのである。

著者は言う:

「終わりなき日常」の荒涼たる原風景の中で心の病に苦しむ現代人に向かってグノーシス主義が発しうる最大かつ最良のメッセージは,おそらくこの辺りに求められるべきであろう。入江が言わんとすることもおそらく同じことだろう(本書318頁)。


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「結び」ではグノーシス主義の限界についても述べられている。

過酷な現実世界から逃避したいと思いながら,同時に超越的な神を信じることもできない現代人にとっては,グノーシス主義の教義は魅力的である。しかし,グノーシス主義の立場を採る限り,世界を良い方向に変革しようという思いは生まれない。これが,現実の世界を前にした時のグノーシス主義の限界である。

著者はこの限界を超える答えを用意していないが,ヒントとしてグノーシス主義の反駁論者,すなわち正統主義キリスト教会の論者たちの意見を聞いてみようということを言っている。グノーシス主義が世界を席巻した時,その脅威に抵抗し,現実の世界の問題に取り組むことを真剣に考えた反駁論者たちの声にも耳を傾けようというのである。


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陳腐な表現になるかもしれないが,グノーシス主義が我々に突きつけるものは2つだと思う。一つは自己をどう認識するかということ。そしてもう一つは,世界とどう向き合うかということ。

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