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2014.06.23

山中恒『暮らしの中の太平洋戦争』を読む

「児童よみもの作家」である山中恒が,戦中の貴重な資料をもとに,当時の庶民の暮らしを描き出した新書,『暮らしの中の太平洋戦争』を読んでいる。

戦時中の市井のエネルギー事情について知りたくて,あれこれ立ち読みしていたところ,この本の第1章に「木炭自動車」についての記述を見つけたことが,この本を読みだしたきっかけである。

暮らしの中の太平洋戦争―欲シガリマセン勝ツマデハ (岩波新書)暮らしの中の太平洋戦争―欲シガリマセン勝ツマデハ (岩波新書)
山中 恒

岩波書店 1989-07-20
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ガソリンに頼らず木炭ガスで走る,木炭自動車の話(エンジンの起動になんと15分以上かかる)は,それはそれで面白かったが,他の9章の話もそれぞれ興味深い。

綿や羊毛の不足から,劣悪な「スフ(ステープル・ファイバー)」を混紡した衣料品(原料がパルプなので,水に弱い)を着用せざるを得なかった話(「第五章 ボロ切れに込められた思い」)なんか読むと,下着の質まで統制される事態に滑稽さと恐怖とを同時に感じる。ちなみに,衣料品の統制を管轄していたのは商工省で,当時の大臣は安倍ちゃんの祖父,岸信介である。

戦争なんて遠い日の話,と思うかもしれないが,例えば臨時軍事費の財源である国債を消化するために,大蔵省が国民に対して貯蓄を要請したあげく,経済が破綻へと向かっていく話(「第六章 勝ち抜くために,もっと貯蓄を!」)や,食糧不足で食料品(闇)価格の異常な高騰が起こった話(「第八章 究極のダイエット・メニュー」)などを読むと,年金制度破綻の可能性や食料品・原材料価格の高騰,ハイパーインフレの可能性などの問題を抱えた現在は,戦時下と何ら変わらないのではないかという気持ちが起こってくる。


  ◆   ◆   ◆


余談だが,著者・山中恒が「児童文学者」を名乗らず,「児童よみもの作家」を名乗るのは,戦時中に戦争に協力するような内容の作品を書いた児童文学作家たちが,戦後あっさりと転向したことに対する反発が一因らしい。

ちなみに,この人は「あばれはっちゃく」や「おれがあいつであいつがおれで」(大林宣彦監督『転校生』の原作)等を書いた人でもある。

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