« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »

2014.06.30

グノーシス主義に関する最良の入門書:大貫隆『グノーシスの神話』

つい最近,講談社学術文庫入りしたばかりの大貫隆『グノーシスの神話』は,一冊でグノーシス主義の全貌が把握できる,凄い本である。こういう本が税込1200円以内で手に入るというのは素晴らしいことだ。

グノーシスの神話 (講談社学術文庫)グノーシスの神話 (講談社学術文庫)
大貫 隆

講談社 2014-05-10
売り上げランキング : 139791

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

グノーシスとは何か,ということを高校生の時に使っていた世界史辞典だの実家の古い辞書だので調べてみると,こんなことが書いてある:

グノーシス派 Gnosis キリスト教の異端の一派」 1~4世紀ごろ,ギリシア・小アジア・エジプトなどに広まり,グノーシス(ギリシア語で「知識」の意)により神を認識しようとしたが,その理性的な態度は教会側から異端として攻撃され,衰えた。(歴史教育研究所編『世界史辞典』旺文社,改訂版発行1978年,重版発行1987年)

グノーシス派 《the Gnostics < ギリシア gnosis(知識)》 初期キリスト教徒の一派。ギリシア哲学を信仰と結びつけようとした。2~3世紀に,ローマ・ギリシアに流布。のち,異端として弾圧された。(三省堂編集所編『広辞林 第5版』三省堂,1973年)


間違ってはいないが,「グノーシス主義」ではなく,より狭く,キリスト教の一派としての「グノーシス派」についての記述しかない。何よりも,教義内容には触れず,歴史的経緯のような表面的なことしか述べられていない。まあ,辞書の限られたスペースではこんなものだろう。

これらに対し,『グノーシスの神話』では,「はじめに」の部分で,グノーシス主義について簡潔にわかりやすく述べている:

グノーシス主義とは,人間の本質は至高の神の一部であり,その本質を絶対的に超える存在はない,という思想(略)
ただし,現実の人間は居場所を間違っている。本来の場所へ立ち帰らねばならない。このことの「覚知」(あるいは「認識」,ギリシア語でグノーシス Gnosis)こそが,その立ち帰りの途を開く。これがグノーシス主義のメッセージである。(本書3頁)

間違った居場所とはこの世界であり,そしてこの肉体のことである。

そして,本来の場所とは,プレローマーとも永遠のアイオーンとも呼ばれる,至高神の思惟で充満した領域である。

つまり,神の一部でありながら,この腐敗した世界で生きていかざるを得ない人間,という鬼束ちひろ的世界観・人間観,これがグノーシス主義の中核というわけだ。

え,この世界や人間(の肉体)は間違って作られたの? 神の一部がなぜ,人間の中に入っているの? 等々の疑問が発生するはずだが,グノーシス主義に属する宗教はそれらについて壮大な神話を以て回答する。


Crossed_circlesvg


グノーシスの神話は,上エジプトで発見されたナグ・ハマディ文書,エジプトやトゥルファンで発見されたマニ教関連文献,キリスト教グノーシス諸派やマニ教を論駁する古代・中世の文書,現在もメソポタミアに細々と伝承されているマンダ教の経典「財宝(ギンザー)」など,様々な文書に記されている。だが,これらの文書の記述内容には大きなばらつき,時として記述の混乱や矛盾点が見られ,「この経典を読めば,グノーシス主義の全貌が分かる」というようなものとはなっていない。

しかし,著者はグノーシス主義の文献の重要箇所を断章として取り出し,それらを神話の展開過程に沿って整理して読者に提示することにより,原典をしてグノーシス神話の全貌を語らせることに成功している。

グノーシスの神話は3類型に分かれる。一つはヴァレンティノス派・シモン派・セツ派などに代表される「シリア・エジプト型」あるいは「西方型」と呼ばれる類型で,具体的な内容は本書第II章「ナグ・ハマディ文書の神話」で示される。

「西方型」は端的に言えば一元論の世界観による神話である。至高神の,そして人間の真の姿としての「光」が全ての根源となっている。著者の説明を引用する:

(西方型)では,「光」そのものの中に一つの「破れ」が発生して,それが原因となって,やがて「闇」の領域の中に造物神が生成する。さらには彼によって目に見える宇宙万物が創造され,その中に人間が「心魂」と肉体から成るものとして造られる。その心魂的および肉体的人間の中に光の部分が至上の原理として宿ることとなったのは,その「破れ」を修復しようとする光の勢力が造物神の知らぬ間にそれを注入したことによる。個々人の救済は,このことを認識して,それにふさわしく生き,肉体の死後,造物神の支配する領域を突破して,その彼方の光の世界へ回帰することにある。(本書31ページ)


グノーシスの神話の別類型は,マニ教に代表される「イラン・マニ教型」あるいは「東方型」と呼ばれる類型で,具体的な内容は本書第IV章「マニ教の神話」で示される。

「東方型」は善悪二元論による神話で,「光」と「闇」の対立を主軸としている。著者の説明を引用する:

人間の真の自己の隠喩としての「光」,その対立原理としての「闇」をそもそもの初めから設定し,互いに対立させると同時に,二つの原理が混合し合う事件を考える型である。宇宙生成以前に起きたその事件によって光の一部が闇の中に失われた。光の側は失われた部分を取り返そうとし,闇の側はそうはさせまいとする。目に見える宇宙万物と人間の肉体は,その角逐の中であくまでも戦略的に創造される。人間の救済は,闇の中に捕縛された光の部分の濾過回収がどこまで成功するかに懸かっている。(本書30~31ページ)


グノーシスの神話の最後の類型はマンダ教である。これは「西方型」と「東方型」の混合した類型である。その具体的な内容は本書第III章「マンダ教の神話」で示される。


Crossed_circlesvg


グノーシス神話では至高神と造物神は同一ではない。

例えば,「西方型」の神話では至高神から流出したソフィアというアイオーン(神的存在)が起こした過失によって,無知蒙昧な造物神ヤルダバオートが生まれる。ユダヤ教徒にせよキリスト教徒にせよ,自分たちが崇めている全能の神が低位の無知蒙昧な神に貶められたらたまったものではない。だからこそ,キリスト教内部のグノーシス派は最大の異端とされ迫害されたわけである。

グノーシス主義の宗教のほとんどが滅んでしまった理由の一つには,こうした正統主義キリスト教会との戦いがあるだろう。

しかし,グノーシス主義の宗教はキリスト教に対して,悪はどこから生じたのか,という難問を突き付けた。グノーシス側,例えば「西方型」の神話ではソフィアの過失が悪の由来となっている。「東方型」マニ教では,そもそも「光」=「善」に対する「闇」=「悪」という存在を前提としている。複雑な神話体系となってはいるが,グノーシス主義の宗教側は悪の由来についての答えを持っているわけである。

キリスト教会側は,「予定論」と「原罪論」という教義によってこの難問を解決したというが,キリスト教神学の知識を持たない小生にとってはこれらの教義は難解でよくわからない。だが,グノーシス主義が論争を通してキリスト教の教義を深化させる役割を担ったのだろうということはわかる。ブレーメンベルクから見れば,それらの教義は「超克されずに移植されただけのグノーシス主義」だということだ。それが正しいのならば,グノーシス主義はキリスト教の中でimplicitに生き延びていると言えるだろう。


Crossed_circlesvg


本書の「結び グノーシス主義と現代」ではニューエイジ運動とグノーシス主義,「終わりなき日常」(by 宮台真司)とグノーシス主義など,興味深い話が展開されているが,そのあたりは稿を改めて紹介する。


ナグ・ハマディ文書〈1〉救済神話ナグ・ハマディ文書〈1〉救済神話
荒井 献

岩波書店 1997-11-27
売り上げランキング : 519330

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

トマスによる福音書 (講談社学術文庫)トマスによる福音書 (講談社学術文庫)
荒井 献

講談社 1994-11-02
売り上げランキング : 220874

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.27

中国資本でニカラグア運河が誕生

太平洋と大西洋をつなぐ水路といえば,パナマ運河だが,最近,中国資本によってニカラグア運河の建設が始まりそうだという報道があった:

「米の裏庭 中国発5兆円事業」(2014年6月23日 朝日新聞1面)

「巨大運河建設 動く『神秘の男』」(同上 2面)

「神秘の男」というのは香港ニカラグア運河開発投資有限公司(HKND社)の総裁,王靖氏(41歳)のことである。王靖氏は信威通信産業グループを率いる経営者だが,朝日新聞の報道内容から推測すると中国共産党の最高指導部と強いつながりがあるようだ。

ニカラグア運河が完成すると,パナマ運河よりも大型の船が通過できるようになり,南北米大陸周辺の物流が激変する可能性がある。


  ◆   ◆   ◆


ニカラグア運河というのは実は,パナマ運河とともに有力な物流ルートとして19世紀ごろから建設構想があった。

ただし,ニカラグアにはモモトンボという厄介な火山があるため,ニカラグアルートではなく,パナマルートが選択され,1914年にパナマ運河が開通した。

こうしてニカラグア運河のことは忘れられてしまったのだが,今,中国資本によって構想が復活したわけである。


  ◆   ◆   ◆


ニカラグア運河のことで思い出したのが,"Shifting Sea"という大昔(1937年)のSF。

ニカラグア運河計画に関与していた主人公が,飛行機でニカラグア上空を移動中に,巨大噴火を目撃するところから話が始まる物語である。

この大噴火によって,ニカラグアやパナマなど,中南米の陸地の多くが海中に没し,南北アメリカが分断されてしまう。その結果,海流が変動し,西欧諸国の気温を維持していたメキシコ湾流が西欧に到達しなくなり,西欧諸国民が生存の危機に瀕する,という内容である。

これを丁寧に翻訳して公開しているページ(「海流移動」)があるので,時間がある人は読んでいただきたい。

運河の話と,地峡分断による気候変動の話は直接関係ないが,ニカラグアやパナマなど中南米の状況変化が世界に大きな影響を与えるという点では似ているかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.25

岩波文庫に尾崎翠『第七官界彷徨』が入る件

以前,「胞子文学のススメ」(2014年4月14日)という記事の中で,田中美穂編『胞子文学名作選』(港の人)という書籍を紹介した。

胞子文学名作選胞子文学名作選
田中 美穂

港の人 2013-09-20
売り上げランキング : 81353

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

このアンソロジーの中で重要な位置を占めているのが,尾崎翠「第七官界彷徨」という作品だが,このたび,岩波文庫に他の作品とともに入ることとなった:

第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇 (岩波文庫)第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇 (岩波文庫)
尾崎 翠

岩波書店 2014-06-18
売り上げランキング : 24067

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

とりあえず,ウィッシュリスト入り。だが,買うべきか,買わざるべきか。

以前,岩波文庫にサルトル『自由への道』が入ったときもそうだったし,折口信夫『死者の書・口ぶえ』が入ったときもそうだったのだが,ここ数年,小生が読みたいと思うような本が読みやすい形(新訳,現代語訳)で,岩波文庫に入るので,こちらとしても購入せざるを得ない状況になっている。なんということだ,岩波文庫。

そうそう,エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』 やブッツァーティ『タタール人の砂漠』もウィッシュリストに入ったままだ。

やし酒飲み (岩波文庫)やし酒飲み (岩波文庫)
エイモス・チュツオーラ 土屋 哲

岩波書店 2012-10-17
売り上げランキング : 70379

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タタール人の砂漠 (岩波文庫)タタール人の砂漠 (岩波文庫)
ブッツァーティ 脇 功

岩波書店 2013-04-17
売り上げランキング : 93748

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2014.06.24

米国務省「人身売買に関する年次報告書 2014」で「JKお散歩」が取り上げられた件

昨年,米国務省の「人身売買に関する年次報告書」の内容をもとに,「人身売買対策に関して日本は2等国扱い」(2013年6月21日)という記事を書いたわけですが,今年も「女子高生お散歩」という具体名を挙げて,日本が叩かれております:

米国務省「人身売買に関する年次報告書 2014年版」日本に関する記述(英文)
http://www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/countries/2014/226748.htm

やはり,今年も日本はTier 2すなわち二等国扱いである。
日本についての報告はこんな記述から始まっている:

Japan is a destination, source, and transit country for men and women subjected to forced labor and sex trafficking, and for children subjected to sex trafficking.

日本は労働や売春を強制されている成人男性・女性,売春を強制されている児童の消費地であり生産地であり集散地である,と述べられている。

「女子高生お散歩」の記述は2段落目に見られる:

Japanese nationals, particularly runaway teenage girls and foreign-born children of Japanese citizens who acquired nationality, are also subjected to sex trafficking. The phenomenon of enjo kosai, also known as “compensated dating,” continues to facilitate the prostitution of Japanese children. In a recent trend called joshi-kosei osanpo, also known as “high school walking,” girls are offered money to accompany men on walks, in cafes, or to hotels, and engage in commercial sex. Sophisticated and organized prostitution networks target vulnerable Japanese women and girls in public areas such as subways, popular youth hangouts, schools, and online; some of these women and girls become trafficking victims. Japanese men continue to be a significant source of demand for child sex tourism in Southeast Asia and, to a lesser extent, Mongolia.

(拙訳)日本人,特に家出少女や外国生まれの子供たちは売春をさせられている。「援助交際」,つまり「報酬のあるデート」という現象が日本の子供たちの売春を促している。最近では「女子高生お散歩」というものがあり,女子高生が男たちから金銭を受け取るかわりに,散歩や喫茶店やホテルに同行することを提案され,売春を約束させられている。洗練された組織的な売春ネットワークは,地下鉄・若者のたまり場・学校・ネットで,か弱い日本成人女性や少女たちを狙っている。これらの成人女性や少女たちの中には売春の犠牲になるものもいる。日本人男性たちは東南アジア,場合によってはモンゴルにおける児童買春ツアーの有力な顧客であり続けている。

この報告書の中では,売春だけでなく,外国人技能実習制度 (Trainee and Technical Internship Program)もまた,強制労働の温床として槍玉に挙げられている。

米国から見た場合,日本はG8の中で唯一,国連の人身売買防止プロトコル (the 2000 UN TIP Protocol)に加わっていない問題国なのだそうだ。


  ◆   ◆   ◆


日本は今,安全保障,端的に言えば軍事に関して「普通の国」になろうと努力をしているところである。しかし,上述したように,人権に関しては普通の国の域には達しておらず,米国に不合格の烙印を押されている状態である。

先日から都議会のセクハラ野次事件がガーディアン(参考)やウォールストリートジャーナルなど,英米のメディアに取り上げられ,女性の権利に対する日本の政治家の意識の低さが露呈されている有様である。これもまた,欧米から見れば,日本が人権に関して普通の国の域に達していないことの傍証となっている。

日本は日本,欧米の価値観なんかどうでも良い,という独自路線を歩むという手もあるが,政府・与党の発言を聴いている限り,国際社会の一員,というよりもとくに(G8ではなく)G7,つまり欧米主要国の一員でありたいという強い意思を感じる。

だとすれば,欧米の価値観に合わせて,安全保障のみならず人権でも欧米と同じレベルにもっていかなければまずいと思う。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

映画『舟を編む』を観た

『舟を編む』(石井裕也監督,松田龍平,宮﨑あおい主演)。

ずっと前にテレビで放映されていたのを録画したまま放置していたが,本日,ようやく観た。

玄武書房の辞書編集者たちが1995年から2010年までの15年をかけて大辞典『大渡海』を編むという話。

観た人も多いことだろうからあらすじは省略。印象に残ったことだけ述べる。

松田龍平演じる辞書編集者・馬締光也(まじめ・みつや)の猫背の歩き方は,『蘇える金狼』で松田優作が演じた真面目な会社員(を装っている)・朝倉の幽霊のような歩き方を彷彿とさせた。

馬締光也の妻・林香具矢(はやし・かぐや)を宮崎あおいが,西岡(オダギリジョー)の恋人・三好麗美(みよし・れみ)を池脇千鶴が演じている。この二人,演じていた役を入れ替えても映画の雰囲気が変化しないような気がする。なんとも不思議な配役。

『大渡海』の監修を務める松本朋佑を加藤剛が演じていたが,これは適役。辞書完成を見ずに死去するという雰囲気が初めからあった。


  ◆   ◆   ◆


『大渡海』は完成までに15年かかっているが,辞書・辞典に関わる苦労話は多い。


『大漢和辞典』の話

世界最大の漢和辞典として知られる『大漢和辞典』(大修館書店)は1925年に発案されてから,1955年の第1巻刊行までに30年(1943年にも第1巻が刊行されたが,後述する空襲のため,刊行中断)。1960年の第13巻刊行で完結するまでに35年の月日が流れている。その間,空襲で大修館とともに印刷用の版が全て焼損したり,辞典編纂の代表者だった諸橋轍次が失明したりと数々の困難に見舞われている。なお,2000年に「大漢和辞典補巻」が刊行されているので,それを完成とすれば,なんと完成までに75年かかったことになる。


『佛教語大辞典』の話

哲学者中村元(なかむら・はじめ)はただ一人で20年かけて『佛教語大辞典』を執筆していた。しかし,その原稿3万枚は,某出版社に渡されたあと,その出版社の引越しの際に紛失されてしまった。中村元はその後,原稿を最初から書き直し,8年かけて完結させ,別の出版社,東京書籍から全3巻で刊行した。項目数は45000に上る。


ということで,辞書の執筆・編纂は生涯をかけるのに足る偉大な仕事なのであります。


舟を編む舟を編む
三浦 しをん

光文社 2011-09-17
売り上げランキング : 1378

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

辞書を編む (光文社新書)辞書を編む (光文社新書)
飯間 浩明

光文社 2013-04-17
売り上げランキング : 100465

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.23

山中恒『暮らしの中の太平洋戦争』を読む

「児童よみもの作家」である山中恒が,戦中の貴重な資料をもとに,当時の庶民の暮らしを描き出した新書,『暮らしの中の太平洋戦争』を読んでいる。

戦時中の市井のエネルギー事情について知りたくて,あれこれ立ち読みしていたところ,この本の第1章に「木炭自動車」についての記述を見つけたことが,この本を読みだしたきっかけである。

暮らしの中の太平洋戦争―欲シガリマセン勝ツマデハ (岩波新書)暮らしの中の太平洋戦争―欲シガリマセン勝ツマデハ (岩波新書)
山中 恒

岩波書店 1989-07-20
売り上げランキング : 402914

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ガソリンに頼らず木炭ガスで走る,木炭自動車の話(エンジンの起動になんと15分以上かかる)は,それはそれで面白かったが,他の9章の話もそれぞれ興味深い。

綿や羊毛の不足から,劣悪な「スフ(ステープル・ファイバー)」を混紡した衣料品(原料がパルプなので,水に弱い)を着用せざるを得なかった話(「第五章 ボロ切れに込められた思い」)なんか読むと,下着の質まで統制される事態に滑稽さと恐怖とを同時に感じる。ちなみに,衣料品の統制を管轄していたのは商工省で,当時の大臣は安倍ちゃんの祖父,岸信介である。

戦争なんて遠い日の話,と思うかもしれないが,例えば臨時軍事費の財源である国債を消化するために,大蔵省が国民に対して貯蓄を要請したあげく,経済が破綻へと向かっていく話(「第六章 勝ち抜くために,もっと貯蓄を!」)や,食糧不足で食料品(闇)価格の異常な高騰が起こった話(「第八章 究極のダイエット・メニュー」)などを読むと,年金制度破綻の可能性や食料品・原材料価格の高騰,ハイパーインフレの可能性などの問題を抱えた現在は,戦時下と何ら変わらないのではないかという気持ちが起こってくる。


  ◆   ◆   ◆


余談だが,著者・山中恒が「児童文学者」を名乗らず,「児童よみもの作家」を名乗るのは,戦時中に戦争に協力するような内容の作品を書いた児童文学作家たちが,戦後あっさりと転向したことに対する反発が一因らしい。

ちなみに,この人は「あばれはっちゃく」や「おれがあいつであいつがおれで」(大林宣彦監督『転校生』の原作)等を書いた人でもある。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.18

【幻の統計学者・小島勝治】生誕100年,没後70年

今から数十年前のことだが,30年に満たない生涯の中で,民俗学,統計学,社会事業論の分野で莫大な量の研究成果を残した在野の研究者がいた。小島勝治(こじま・かつじ)という。

小島勝治は1914(大正3)年10月19日に大阪で生まれ,1944(昭和19)年7月28日に中国で戦病死した。今年は生誕100年,没後70年にあたる。

小島勝治は大阪府布施市(後の東大阪市)の産業課統計係,その後,大阪市役所の社会事業団体・財団法人弘済会の庶務課統計係に勤めながら,全くの在野の研究者として,前述の民俗学,統計学,社会事業論の研究に勤しんでいた。

先日紹介した佐野眞一『旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三』にも,わずか1か所だが,小島勝治について触れた個所がある。

「役所につとめながら在野の統計文化史学者として数多くの研究論文を発表しながら,三十歳で戦病死した小島勝治」(佐野眞一『旅する巨人』,78頁)

小島勝治は宮本常一が属した大阪民俗談話会に属していて,「あんこうとなかま」(大阪民俗談話会会報,第9号,1940年9月6日)というような語源についての論考などを発表していた。

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)
佐野 眞一

文藝春秋 2009-04-10
売り上げランキング : 156662

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

この他,統計分野の研究成果は『浪華の鏡』(大阪府統計協会発行,昭和11~18年)で,社会事業の研究成果は小島が自ら編集した『社会事業論叢』(財団法人弘済会発行,昭和15年2~9 月の隔月刊)で発表していた。

佛教大学社会福祉学研究室がまとめた「資料・小島勝治文献目録」(『佛教大学社会学部論叢』第3号,1969年9月)によれば,昭和6年(18歳)から昭和15年(27歳)までに386種の論文,随筆,講演などを残している。


  ◆   ◆   ◆


小島の業績は戦後しばらく埋もれていたのだが,1960年代に,小島の友人だった丸山博によって統計学の業績の再評価が始まった。

また1972年には遺稿の一つ,『日本統計文化史序説』が未来社から刊行され,さらにNHKのドキュメンタリー番組「幻の統計学者―小島勝治―」が放映されたことにより,統計学以外の分野からも注目を浴びるようになった。

日本統計文化史序説 (1972年)日本統計文化史序説 (1972年)
小島 勝治

未来社 1972
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

帯(裏)にはこのような賛辞が寄せられている:

●本物の仕事 甲南大学教授 杉原四郎

小島勝治の仕事が本物であることは,彼がその中心的なメンバーであった統計談話会の活動もしめすように,アカデミズムからはなれた市井の研究家にあり勝ちの偏執や独善が全然なく,同好の友人と分担して統計学の基礎文献を一つ一つ消化しながら,学会の成果を着実に,能率的に吸収しようとする研究方法からもわかるであろう。日本統計文化史についての研究は,日本文化と庶民生活とに対する彼独特の情熱が同時に燃焼しているところに大きな意義があるのだが,それが学問の大道をあゆもうとする謙虚な,真摯な研究方法によっているからこそ,召集間際に書きのこしたその最終成果にもなお研究ノート的性格がのこっているにもかかわらず,30年後の学界の吟味に十分堪えうるものをもっているのだと私は思う。

未来社からはさらに『統計文化論集』Ⅰ~Ⅳ (1981年-1985年)の4冊が刊行されている。


さて,なぜ今頃,小島勝治を取り上げるのかというと,佐野眞一『旅する巨人』の一文に興趣を覚えた,さらに言えば「在野」の一語に魅かれた小生が,生誕100年・没後70年を機に第3次小島勝治ブームを興そうと企んでいるからである。

今のところ,少しずつ著作を読んでいるところだが,小島勝治に関する論考はインターネット上で入手できるものもある。例えば以下の4編。

  • 橋本勝:情報文化論の萌芽 : 小島勝治のめざしたもの,情報文化学会全国大会講演予稿集 2 (1994-10-15), pp. 54 - 56
  • 櫻田忠衛:京都大学経済学部所蔵の小島勝治旧蔵書 ―幻の「小島勝治文庫」―,経済論叢別冊 調査と研究 (2001-10), 第22巻,pp. 67-74
  • 京都大学経済学部所蔵小島勝治旧蔵書目録,経済論叢別冊 調査と研究 (2001-10), 第22巻,pp. 75-85
  • 高橋伸一:統計学者小島勝治の残された課題,佛教大学社会学部論集第52号(2011年3月),pp. 85 - 98

興味ある方はGoogle先生で検索して読んでいただきたく。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.16

『アクト・オブ・キリング』を見てきた

先週末,YCAMでジョシュア・オッペンハイマー監督『アクト・オブ・キリング』(2012)を見てきた。

話題作なのでご覧になった諸兄も多いかと思われる。

1965年,インドネシアのスカルノ大統領が左派将校によるクーデター未遂事件とそれに続くスハルトのカウンター・クーデターにより失脚した。その後,右派勢力による「共産党員狩り」が行われ、100万~250万人が殺害された。この一連の騒動をインドネシアでは9月30日事件と呼ぶ。

この騒動で虐殺に加わった人びとに,虐殺の光景を再現させるという特殊な手法で撮影されたのがこの『アクト・オブ・キリング』である。

"Act of Killing"を直訳すれば「殺人行為」だが,町山智浩の言うように「虐殺の再演」の方がふさわしいかもしれない。

舞台はスマトラの大都市メダン。1965年の虐殺の担い手となったのは「プレマン」と呼ばれるギャングたちである。ちなみに「プレマン」はfreeman,すなわち自由人が語源である。

プレマンたちはスハルト政権下で地域の権力を掌握し,民主化が進みつつあると言われる現在でも地元の顔役として堂々とふるまっている。

プレマンたちは「パンチャシラ青年団」(会員300万人)という組織を構成し,圧力団体として政治に影響を与えている。映画の中では,プレマンたちが今もなお華僑たち(1965年の虐殺では華僑たちが主に狙われた)を脅かし,中央・地方政府に影響を与えている様子が看取される。


この映画ではメダンの虐殺で1000人以上を殺害したと言われる大物,アンワル・コンゴに焦点を当てている。

虐殺の再現の際,アンワルも周りのプレマンたちもノリノリで演技をしている。笑い,踊り,歌ってインタビューに答える。殺害手法はアメリカ映画から学んだと,嬉々として言う。今もなおプレマンたちは勝者の立場なので,悪びれる様子はない。

しかし,ロールプレイングで殺す側だけでなく殺される側の演技などを重ねるにつれ,彼らも事件に正面から向き合うようになる。アンワルなんか最後の方では強烈な嘔吐感に襲われている。

よくあるドキュメンタリーのように善悪二元論で,ジャーナリストが事件の首謀者たちを追求するようなスタイルになっていないのが良い。

ジョシュア・オッペンハイマーもこう言っている:

「アンワルに共感するとき,あなたは直感的にこの世界は良い人間と悪い人間に分かれているのではないと感じるはずです。より厄介なことを言えば,我々は自分が信じているよりも加害者に近い存在だと感じるでしょう。」(パンフレット 6ページより)

ちなみに,この映画,を見たヘルツォーク (Werner Herzog)とエロール・モリス (Errol Morris)は編集前の本作を見て衝撃を受け,制作総指揮を買って出たとのこと。

「私は少なくともこの10年間,これほどにパワフルで,超現実的で,恐ろしい映画を観たことがない。映画史上に類を見ない作品である」(ヘルツォーク)


9・30 世界を震撼させた日――インドネシア政変の真相と波紋 (岩波現代全書)9・30 世界を震撼させた日――インドネシア政変の真相と波紋 (岩波現代全書)
倉沢 愛子

岩波書店 2014-03-19
売り上げランキング : 91248

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Act of Killing [DVD] [Import]Act of Killing [DVD] [Import]

Pid 2013-12-03
売り上げランキング : 3060

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2014.06.13

【シンギュラリティ】日経の「騰落率カレンダー」雑感

カブドットコム証券の山田勉さんの解説記事を常日ごろ,ご宣託のように拝読している。

で,カブドットコム山田さんの記事にはいろいろな参考資料がついているのだが,今日初めて知ったのが,日経の「騰落率カレンダー」(日経平均プロフィル)というもの。

1949年5月16日から現在まで,日経平均の日付別の上昇確率を計算して,カレンダー形式でまとめたものである。

これを見ていて面白いと思うのが,気象における「晴れの特異日 (singularity)」とでも言うべき日が存在するということ。

例えば,直近で言えば,6月30日は36勝16負0分で69.23%の上昇確率。翌7月1日も34勝17負0分で66.67%の上昇確率。

いろいろ理由はあると思うけど,あれですか,アノマリーってやつでしょうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

【STAP細胞】発生・再生科学総合研究センター解体・廃止を求める提言【Paradise Lost】

H01axolotlb
(イラスト:藤原有紀子 「CDB絵はがき」より 独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター)

おぼちゃんSTAP騒動はまだ尾を引いております。

外部有識者6人で構成された理化学研究所改革委員会(委員長・岸輝雄東京大名誉教授)が昨日12日に発生・再生科学総合研究センター(CDB)の解体・廃止を求める提言を出しましたが,小生としては極めてまともな提言であると思っております。

外部有識者たちは,目に見える形でセンター長ならびに副センター長に責任を取らせるため,そして組織風土を一新するためにCDBの解体・廃止を提言しているのでしょう。

CDBに勤務する研究者たちにとっては衝撃かもしれませんが,発生生物学が果たす役割は今後も変わることなく,今回の騒動に直接関係していないCDBの研究者が路頭に迷うような心配はないと思っております。

CDB関係者全員解雇とか神戸にあるCDBの建物取り壊しとか,そういったカタストロフィックなことにはならず,組織編成の変更が行われるのでしょう。

提言によれば,研究不正の再発防止のための組織改革案として,外部の専門家による「調査・改革監視委員会」の設置や,理事長直轄の「研究公正推進本部」の新設などが要求されています。

このことを敷衍して考えれば,たとえば,CDBはこれまでの独立性の高い組織から,理研本体直属の組織へと変わるのではないかと。そして,理研本体の「研究公正推進本部」が現CDBに置かれ,その直接の監視下で研究活動を行うようになるとか。

とりあえず,「科学者の自由な楽園」(朝永振一郎)は一部の科学者の不正行為によって終焉を迎えます。これからは衆人環視の中で研究活動をしなくてはなりません。"Paradise Lost"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.11

コーヒー・チョコレート革命:ブルーボトル,サイトグラス,ダンデライオン,チョー,ブロッサム,パーフェクト…

「男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす」(俵 万智)

いま引用した短歌とはまったく縁のない話。"WIRED"によれば,コーヒー,チョコレート業界に新たな波が押し寄せているらしい。

WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)WIRED VOL.12 (GQ JAPAN.2014年7月号増刊)

コンデナスト・ジャパン 2014-06-10
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

一時期はスターバックスコーヒーが良いと思っていた。

しかし,今や,安さの美味さのバランス(コストパフォーマンス)で言えば,コンビニのコーヒーの方が良かったりする。

「セブンイレブンに行けば,安くて美味いコーヒーやサンドウィッチがあるのに,日本人はなぜスターバックスに行くんだ」(某アメリカ人)

美味いコーヒーということで言えば,やはり昔ながらの喫茶店,「大島珈琲店」(宇部)や「橡(つるばみ)」(博多)の方がはるかに美味いと思うし,とても落ち着く。

スタバに行くことの理由は?

…ということで身近なレベルでも,コーヒービジネスの環境が変わってきていると思う。

コーヒーの分野でより激烈な競争が行われている米国ではさらに環境が激変しているようである。

"WIRED"で取り上げられたニュー・エントラントたちの紹介ビデオやブログ記事をまとめてみた。


  ◆   ◆   ◆


ブルーボトルコーヒー (Blue Bottle Coffee)

ジェームス・フリーマン (James Freeman)によって2002年に創業された。おいしいコーヒーを追求し,拡大戦略をできるだけ避けている。ハンドドリップ式でコーヒーを淹れる。2014年10月,清澄白河に初の海外店舗をオープンする予定だそうだ。


ブルーボトルコーヒー創業者による本の紹介ビデオ



創業者へのインタビュー


  ◆   ◆   ◆


サイトグラスコーヒー (Sightglass Coffee)

ジャスティン・モリソン (Justin Morrison)とジェラード・モリソン (Jerad Morrison)兄弟が2009年に創業。二人はもともとブルーボトルコーヒーのバリスタなどをしていた。生豆の選定,焙煎の時間など前工程に重点を置いて研究を重ねている。


サイトグラスコーヒーの紹介ビデオ


  ◆   ◆   ◆


ダンデライオンチョコレート (Dandelion Chocolate)

トッド・マソニス (Todd MAsonis)とキャメロン・リング (Cameron Ring)の二人が2010年に創業。最高品質を求め,手作業で豆を分別。月産12,000個と少量生産が特徴。

ダンデライオンチョコレートに関するブログ記事:
「Dandelion Chocolate/ダンデライオンチョコレート(ショコラティエ)総合87点」 (SF Bite Bite!)

Dandelion Chocolate Bar-to-Bean from Cat Trick on Vimeo.


チョコレートの販売現場から原材料の豆に至る逆回しの紹介ビデオ


  ◆   ◆   ◆


チョー (TCHO)

"WIRED"の創業者であるルイス・ロゼット (Louis Rossetto)が2005年に創業。こちらも少量生産が特徴。チョコレートのベータ版を配布して,消費者の反応から製品を修正するという,ソフトウェア業界風の商品開発手法によって,現在の主力製品を作り上げた。

「ギークのためのチョコレート。サンフランシスコ生まれの「TCHO」」 (@cafe)


  ◆   ◆   ◆


ブロッサムコーヒー (Blossom Coffee)

ジェレミー・クエンペル (Jaremy Kuempel)らによって2012年に創業された「コーヒーメーカー」のメーカー。1℃刻みの水温管理ができる最新鋭コーヒーメーカーを生産している。コーヒーメーカーのアップルを目指す。


商品の紹介ビデオ


  ◆   ◆   ◆


パーフェクトコーヒー (Perfect Coffee)

ニール・デイ (Neil Day)が2013年に創業した,コーヒーのグラインドを重視し,画像解析技術と真空パックの技術を駆使して最高品質のコーヒー粉"Perfect Coffee"を製造・販売している。

創業者のブログ


  ◆   ◆   ◆


ということで,米国のコーヒー・チョコレート業界ではイノベーションが起きているそうです。

食品関係ではわが国も負けてはいられません。緑茶と和菓子の革命があっても良いと思う。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2014.06.10

(続)さよなら人類――13歳の少年を模した人工知能がチューリングテストを通過

Seemannrobot
(Photo by Seeman)


英 the guardian紙の記事だが,ロシア生まれのプログラマたちが作成した13歳の少年を模した人工知能「Eugene Goostman (ユージン・グーストマン?)」が,チューリングテストを通過したとのこと。

"Computer simulating 13-year-old boy becomes first to pass Turing test" (by Press Association, theguardian.com, June 9, 2014)

'Eugene Goostman' fools 33% of interrogators into thinking it is human, in what is seen as a milestone in artificial intelligence

この人工知能を作ったのはロシア生まれで現在米国に住むウラジーミル・ヴェセロフ (Vladimir Veselov)とウクライナ生まれで現在ロシアに住むエフゲニー・デムチェンコ (Eugene Demchenko)の二人である。

チューリングテストはロンドンの王立協会で実施され,33パーセントの質問者を欺いた(人工知能が人間のフリに成功した)という。

過去にもインドで,チューリングテストを通過した人工知能があったということだが,それは会話データベース頼りのもので「知性」と言えるかどうかについて異論があるとのこと(そいつはむしろ「人工無能」の方だろう)。今回の人工知能「ユージン」は,「自分の言葉で話す」タイプだそうで,エポックメイキングなものらしい。

ちなみに「ユージン」の会話は上述のthe guardianの記事の続きで見ることができる:

"Eugene the Turing test-beating 'human computer' – in 'his' own words" (theguardian.com, June 9, 2014)

Algorithm pretending to be 13-year-old boy passes Turing test among third of judges – read some past conversations

ということで,またもや人類の終わりが近づいてまいりました。


はじめてのAIプログラミング―C言語で作る人工知能と人工無能はじめてのAIプログラミング―C言語で作る人工知能と人工無能
小高 知宏

オーム社 2006-10
売り上げランキング : 177101

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.09

【英国国家統計局】地下経済もGDPに

Moneypound
(Photo by mervynjenkins)

先月末の英・ガーディアン紙によれば,英国国家統計局 (ONS) がドラッグや売春などの地下経済もGDPに加算することにしたらしい:

"Drugs and prostitution to be included in UK national accounts" (by Angela Monaghan, theguardian.com, May 29, 2014)

Contribution of drug dealers and prostitutes to the UK economy boosted figures by £10bn according to estimates

ONSの見積もりによれば,地下経済の規模は農業と同程度で,出版業界よりやや小さいぐらいとのこと。

2009年の地下経済は97億ポンド。そのうち売春が53億ポンド,麻薬などのドラッグ売買が44億ポンドだという。地下経済のGDP比は0.7%ということである。

ヨーロッパ各国の統計でも地下経済の加算の動きがあり,その辺の情報は産経新聞が取り上げている:

『麻薬、売春』でGDPかさ上げ 伊・英が地下経済を統計に加算 “やくざ経済”で日本も!?」(2014年6月9日,産経新聞)

この動きが世界に広まれば,ある年を境に,統計上の経済成長が世界各国で見られるかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

【キュレーション】今週の注目記事(2014年6月第2週)

今週,小生が気になった記事を並べている。自分用のメモでもある。先週の記事もあるが,ご寛恕願います。


ビートきよしが語る,オフィス北野入りの真相と,相方・たけしとの不思議な"絆"」(by 大川内麻里,Business Journal, 2014年6月6日)

――ツービートの二人は互いに敬意があって,非常に気持ちの良い関係だと思う。

相方 ビートたけしとの幸福相方 ビートたけしとの幸福
ビートきよし

東邦出版 2012-10-20
売り上げランキング : 199936

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


俳優の林隆三さん死去 70歳」(産経ニュース,2014年6月9日)

――この人,ピアノの弾き語りもできる。小生にとってはNHKドラマ版「たけしくん,ハイ」(1985年)の竹次郎。

氷を食べて痩せる,『熱量』ダイエット」(WIRED,2014年6月8日)

――氷を解かすためにエネルギーを消費する,というのが基本。ただし,運動直後に氷を食べると,本来消費されるエネルギーを減らしてしまうことになり,運動の効果を下げてしまうという。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.06

さよなら人類――ソフトバンクによるロボット開発と2045年問題

昨日,ソフトバンクモバイルが感情認識ロボットをお披露目したわけである。価格は19万8000円(税別)だそうだが,初代AIBOが25万円だったことを考えると,そう高くない。ハイシーズンに海外旅行に行くより安い。

「ソフトバンクが感情認識ロボットを19.8万円で発売へ」(2014年6月5日,ロイター)

だいぶ前に「癒し系ロボット・パロ,海外デビューの件」(2008年11月21日,本ブログ)という記事を書いたが,「パロ」同様,ソフトバンクの「ペッパー」も老人ホームなどでの需要がありそう。

話し相手程度のロボットの普及はもうアウトブレーク寸前だろうと思う。これからヤバいのは知的労働も含めた人間の仕事のほとんどをロボットがカバーしてしまうだろうという可能性だ。


  ◆   ◆   ◆


日本語版"WIRED"が,ジョニー・デップ主演の映画「トランセンデンス」の公開に合わせて人工知能の未来についての特集を組んでいる。インタビューに答えているのは「2045年問題 コンピュータが人類を超える日」の著者・松田卓也先生である。

「2045年,人類はトランセンデンスする?」(WIRED)

この記事で紹介されているレイ・カーツワイルの予想によれば,人工知能の性能が全人類の知性の総和を超える「シンギュラリティ=技術的特異点」が2045年に来るという。

2045年問題 コンピュータが人類を超える日 (廣済堂新書)2045年問題 コンピュータが人類を超える日 (廣済堂新書)
松田 卓也

廣済堂出版 2012-12-22
売り上げランキング : 1853

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するときシンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき
レイ・カーツワイル 小野木 明恵

NHK出版
売り上げランキング : 1267

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


そうなった場合,我々人類がやるべき仕事は残っているのか?

すでにものづくりの分野はロボットに代替されつつある。近年「リショアリング」と言って,中国に工場を置いていた(「オフショア」していた)米国系のメーカーが米国本土に引き上げつつあるという。賃上げ要求をする労働者たちよりも,米国本土でロボットを使った方が安上がりになるという計算が裏にある。

「鴻海(ホンハイ)」が100万台のロボットを入れるという噂もあった。それが本当であれば,鴻海もまた,人よりもロボットの方が採算性が良いという判断をしたということだろう。

現時点では,超微細加工などはまだ職人の手に頼らざるを得ないが,それもいずれはロボットの仕事になる可能性がある。

技能以外なら人間の仕事が多く残されている……と思うのは早計だ。すでにインターネット検索には人工知能がフルに活用されており,Siriやiコンシェルのように,音声であれこれ応えてくれる仕組みが普及している。莫大な知識を基にした商売,例えば,教員,弁護士,弁理士,医師のような仕事なら人工知能がかなりの部分を担うことができるようになっている。

よりクリエイティブな領域,つまり芸術分野も危ない。作曲に関しては「○○風の曲を」と依頼すれば,自動的に作曲するシステムができている。

全ての職が人工知能によってカバーされた時,人類は何をするべきか? あそびぐらいしか残っていないのではないだろうか? だとしてもあそぶためのお金はどのように稼げばよいのか?

人工知能に早く投資してきた人々は超富裕層として「エリジウム」で繁栄を享受するかもしれない。

しかし,そうでない人々はどうなるか? スラムでロボットからお恵みをもらって生きのびるのか? そうなる前段階として,近い将来,人工知能に仕事を奪われた人々によるデジタル・ラッダイト運動が吹き荒れる可能性もある。


  ◆   ◆   ◆


現在の資本主義パラダイムに頼ったままだと,人工知能の普及によって窮地に陥る可能性があるような気がしてきた。

早めに農業大学校(参照:全国の農業大学校)で勉強して,里山資本主義化して(参照),自給体制を整えた方が良いかも。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2014.06.05

国家緊急権――国家のクライシス・マネジメント

<本題に入る前に>

よく混同されるが,経営学の世界ではリスククライシスを分けて取り扱う。どちらも経営に悪影響を及ぼすことに違いないが,リスクは想定でき,ある程度コントロールできるに対し,クライシスは全く想定外のことで,事前に対応策を練ることができない。

例えば,わが国は毎年台風に見舞われる。これに備えて,工場の屋根を補修しておいたり,窓ガラスを補強しておいたり,台風直撃時の通勤規制をあらかじめ定めておいたりするのはリスク・マネジメントである。

これに対して,飛行機が工場に落ちてきて,工場長他幹部たちが亡くなってしまったらどうするのか,ということを考えるのがクライシス・マネジメントである。いろいろな答えがあると思うが,あらかじめ決めておけるのは次のようなことだろう:

  • 責任者の序列を決めておく(工場長,副工場長,○○部長,○○課長,○○係長,○○班長,・・・というように上から順に,一般の社員,パートに至るまで)
  • 現場で生き残っている一番上の責任者が,被害を最小限に留めることを目的として,必要な措置を講ずる

ようするに,クライシスの内容や対応策はあらかじめ定めることができない(定めることができたら,それはクライシスではなくリスクである)ので,「緊急時の責任者を定め,必要な行動をとらせる」ことのみ事前に定めておくということがクライシス・マネジメントのポイントである。


  ◆   ◆   ◆


<さて,本題>

先ごろ出版された橋爪大三郎『国家緊急権』(NHKブックス)を読んで,国家緊急権について考えることは,要するに国家のクライシス・マネジメントを考えることに他ならない,と理解した。

国家緊急権 (NHKブックス No.1214)国家緊急権 (NHKブックス No.1214)
橋爪 大三郎

NHK出版 2014-04-19
売り上げランキング : 28177

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

本書「まえがき」で,著者は

  • 政府→獰猛な番犬
  • 人民→飼い主
  • 憲法→鎖
  • 緊急事態→悪漢

の例えをもって,国家緊急権の説明を行っている。

飼い主の手におえないような悪漢が家に侵入してきたときどうするべきか。獰猛な番犬を鎖から解き放して悪漢に立ち向かわせるのが,合理的ではないかと。この鎖を解き放つことが国家緊急権にあたる。

それがうまくいくかどうかはわからない。番犬は悪漢に向かわず飼い主を噛むかもしれない。二度と鎖に繋がらないかもしれない。

国家緊急権は劇薬であり,危険性がある。だから,憲法学では最大のタブーとされ,触れられない。だが,議論まで封じるのはいかがなものだろうか,というのが著者の意見である。

現憲法と法体系には「緊急時」の考え方が無い。これは致命的な弱点だと著者は言う。

緊急時とは戦争に限らない。このあいだの原発事故もあるし,パンデミックもありうるし,経済危機もありうる。現憲法と法体系で対応できない事態に対し,公共の福祉を守るため,主権者たる人民に代わって政府が行動をとるのが国家緊急権である。

緊急時には,必要があれば,政府は行動すべきです。必要があれば行動するのが正しい,と憲法に書いてあるかのように行動する。これは形式的には憲法違反ですが,実質的には合理性をもっている。(本書 55~56頁)

国家緊急権は緊急時に発動されるが,目的はもとの憲法秩序に戻ることにある。その戻し方が重要なのだが,失敗すると実質独裁制に移行する可能性がある。だから,議論したくない,緊急時については考えたくない,現憲法はそのままにしておきたい,そういう意見が生ずる。国家緊急権は民主主義と憲法秩序をよく理解したものだけが取り扱える難問,「上級問題」なのである。

しかし,著者はこのように述べる:

「日本の人びとは過去半世紀あまり,民主主義と憲法秩序に慣れ親しみ,充分に国家緊急権を理解できる下地ができていると思うのです」(本書 172頁)

国家緊急権について考えることは現憲法の重要性や限界について考えることである。そしてまた,政治家を選ぶ際には,ひょっとしたらその人物が国家緊急権の担い手になるかもしれない,という緊張感をもって臨む必要があるだろう。


  ◆   ◆   ◆


<ついでに>

かつて,高校生だった頃,橋爪大三郎先生の著書でインパクトを受けたことがある。それは『はじめての構造主義』(講談社現代新書)だった。

はじめての構造主義 (講談社現代新書)はじめての構造主義 (講談社現代新書)
橋爪 大三郎

講談社 1988-05-18
売り上げランキング : 20358

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

構造主義やポスト構造主義の思想家の著書はもちろんのこと,浅田彰先生による解説本『構造と力』,『逃走論』をよんでもイマイチ,現代思想についての理解が深まらなかった頃,『はじめての構造主義』によって,ようやく霧が晴れたような気がした。

その後,竹田青嗣『現代思想の冒険』(毎日新聞社 1987年),笠井潔『ユートピアの冒険』(毎日新聞社 1990年)と読み進めてなんとか現代思想に関する基礎知識が身に付いたと思う。

橋爪先生による一般向けの文章は平易かつ明晰で,今回の『国家緊急権』もその例に漏れない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.04

【六四天安門事件から25年】幻の「38軍」

「天安門事件」というのは1976年と1989年の2度発生している。今,日本で天安門事件と言えば,後者,1989年6月4日に発生した「六四天安門事件」を指すことが多い。

今日はこの六四天安門事件(以後,単に天安門事件と書く)発生から25年の日である。

この事件が起こった時,小生は阪大の1回生(1年生)で豊中キャンパスで教養課程の教育を受けていた。西洋史や政治学の先生方が,授業のマクラでこの事件についていろいろ解説してくれたことを覚えている。

「六四天安門事件」についての概説はWikipediaに書いてあるし,これからネット,テレビ,新聞などで解説記事,回顧記事が書かれることだろう。小生はここでは,天安門事件報道にまつわる,一つのミステリーについて書いてみたい。


  ◆   ◆   ◆


6月4日未明,天安門広場に集まった学生に対して,人民解放軍・戒厳部隊による武力行使が行われた。

これに対して反対の立場をとる軍の別勢力(反戒厳軍)があって,戒厳部隊との対決姿勢を強めていた…という報道があった。

当時の朝日新聞の記事にはこうある

「軍同士が衝突か、重火器の砲声響く 内戦に発展の様相も 北京」(北京・田村特派員,1989年6月6日 朝日新聞朝刊)
「市内では5日,戒厳部隊の戦車隊による威嚇行進や発砲が続いたが,夜8時すぎになってロケット砲など重火器による砲声が時折響き出した。北京市西郊では,戒厳部隊のうち楊尚昆・国家主席の子息が指揮をとるとされる27軍と,鎮圧に反対の立場をとるといわれる38軍との対峙(たいじ)状態が伝えられている。」
「中国、武力行使への抗議行動が拡大 反戒厳軍への備え? 要所に戦車」(北京・田村特派員,1989年6月6日 朝日新聞夕刊)
「北京市中心部を武力で制圧した楊尚昆国家主席直系の戒厳部隊は5日深夜から,市内数カ所の幹線道路の要所に戦車部隊と大量の兵員を配置,趙紫陽・党総書記ら改革派につながるとみられる反戒厳部隊との対決に備える構えを見せている。楊氏と李鵬首相らの武力鎮圧に対する反発は,学生,市民ばかりでなく解放軍内部にも広まっており,5日深夜から6日未明にかけて、市内では軍同士による衝突の情報も飛び交った。」


ということで,戒厳部隊の27軍と反戒厳部隊の38軍が対峙し,一部では戦闘が始まったのではないかとの情報も伝えられている。


  ◆   ◆   ◆


翌6月7日,朝日新聞はこのように伝えている:

「軍同士、各所で銃撃戦 戒厳軍が深夜移動 内戦の危機はらむ北京」(北京・田村特派員,1989年6月7日 朝日新聞朝刊)
「消息筋によると, 戒厳部隊と衝突しているのは, 当初から学生運動鎮圧への武力行使に反発, 4日未明の部隊出動に対して命令を拒否したとされる38軍(河北省保定市)や28軍などが主力。」
「38軍は6日早朝から, 市南郊の南苑軍用空港で27軍と銃撃戦を繰り広げ, 同夕には38軍が空港を包囲した模様だ。」
「一方, 28軍は4日未明の武力鎮圧の際, 市西郊から進入したが, 鎮圧命令を拒否, 大量の戦車や軍用車両を放棄, 市西部の革命軍事博物館に引きこもっていた。6日夕, この28軍と戒厳部隊は同博物館付近で衝突, 戦車砲やロケット砲が使われた模様だ。午後5時25分ごろには, 戦闘現場から15キロ近く離れた市東部でも, 「ズシン, ズシン」と響く重火器によるとみられる砲声が十数回続いた。」
「戒厳部隊の27軍は, 市中心部の第2環状線内にある, 共産党と政府中枢機関のある中南海や天安門広場付近と, 幹線道路を維持しているが, 進駐が長引くにつれ, 弾薬, 燃料, 糧食などの欠乏が目立っており, 指揮系統の通信線の維持と同時に補給線の確保が急務となっている。反戒厳軍は, こうした戒厳部隊の消耗を待ちながら, 戒厳部隊への反発が強い学生, 市民の力も借りて市街戦を展開する恐れもある。」

反戒厳派として38軍に加え28軍も参戦し,反戒厳派が有利に事を進めているかのような報道内容である。いよいよ体制転覆か?!


  ◆   ◆   ◆


と思っていたら,翌6月8日には矛盾する報道が流された:

「北京市内で軍にらみ合う 反戒厳部隊が進出 27軍, 中心部に再集結」(北京・田村特派員,1989年6月8日 朝日新聞朝刊)
「慌ただしい部隊の動きの中で, 市民らの間には反戒厳部隊の中心とみられる38軍が市中心部に入った, との情報が広まっている。標識を黒く塗りつぶしたトラックの兵士が, 沿道の市民に指で「3」「8」と示した, というもので, 市西郊から天安門広場に接近しているといわれる。しかし, 西側外交筋によると, 8日朝, 天安門広場にいた戦車, 装甲車, トラックは27軍のものだったといい, 情報は入り乱れている。」

ということで市内にいる人民解放軍が戒厳部隊なのか反戒厳部隊なのかよくわからなくなっている。

同じ記事でこのようなことも述べられている:

「8日朝の北京放送は, 人民解放軍の蘭州軍区と成都軍区が党中央と国務院, 中央軍事委員会に電報や書簡を送り, 「首都反革命暴乱平定のための果断な措置を擁護する」と表明したと伝えた。福建, 江西, 陜西の3省と最高人民検察院なども支持を表明したという。中国の7つの1級軍区が武力制圧と戒厳部隊への支持を正式に打ち出したのは初めてとみられ, 軍内部で戒厳部隊支持派が依然, 強い勢力を持つことを示している。」

7大軍区全体が武力鎮圧を支持したという話。逆に言えば,反戒厳派が不利になっているということ。ところがこの文章の直後にはこんな文章が続いている:

「当地の消息筋によると, 38軍が中心とみられる反戒厳軍は7日午後, 戒厳軍の27軍に対し, 武装解除の勧告をした。27軍の反応は明らかではない。」
少なくとも北京市内では反戒厳派・38軍が優勢ということか?

北京の田村特派員の記事の後には香港から次のような情報が伝えられている:

「8日の中国系香港紙「文匯報」は, 北京の消息筋の話として, 天安門広場などに進駐していた戒厳部隊の27軍が7日朝から北京市中心部を離れ始めたのは, 住民の憤りが激しいほか, 共産党トップが同軍部隊の行為が「あまりにやり過ぎ」と感じたためで, 天安門広場の防衛は北京軍区の38軍が引き継ぐことになろう, と報じた。
北京軍区の38軍は民主化要求運動への実力行使に反対の立場をとってきたとされる。その38軍が27軍を「引き継いで」天安門広場に展開するといういきさつについて, 文匯報は何も報じていない。 」(香港・花野特派員,1989年6月8日)

天安門広場の防衛を38軍が27軍から引き継ぐ,という内容である。衝突していたんじゃないのか?という疑問が生じてくる。

これ以降,人民解放軍同士の衝突という報道が下火になり,やがては伝えられなくなってくる。

反戒厳部隊・38軍。それは,民主化運動を担った学生や市民たちの願望が生んだ幻想だったのか?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014.06.03

台湾立法院占拠二題

2014年3月18日,台湾の立法院が「中台サービス貿易協定」に反対する学生たちに占拠された。

Qingtianbairi
(写真は中正紀念堂 Zhongzheng Jiniantangの天井の青天白日の紋章)

学生による占拠は24日に及んだが,学生たちは規律正しく振舞い,大陸中国に脅威を感じる国民から強い支持を受けた。

最近,この事件に関する雑感が2題,朝日新聞に掲載されたのでざっと紹介する。


  ◆   ◆   ◆


「社説余滴 台湾情勢の『左翼』的解釈」(村上太輝夫 朝日新聞 2014年5月27日)

この記事では,台湾立法院占拠事件は階級闘争の側面があるということが述べられていて面白い。

大陸中国と台湾との間でサービス業が自由化されれば,台湾は中国経済に飲み込まれる。そうすると,低賃金化,失業者の増加が避けられない。ひどい目にあうのは若者だ,というわけである。

台湾立法院占拠事件は「中国共産党+国民党+台湾企業」の利権集団に対する学生側の反乱・階級闘争だという解釈を示している。

国民党はもちろん,若者の支持を失ったわけだが,民進党もまた若者の支持を得られなかったという点で深刻な立場にあると,この記事は指摘している。


  ◆   ◆   ◆

「論壇時評 僕らの民主主義 少数派からの『ありがとう』」(高橋源一郎 朝日新聞 2014年5月19日)

高橋源一郎は柔らかい言葉で重要な問題に切り込む。学生たちの運動に未熟さを指摘する論評もある中,高橋源一郎は台湾の学生たちの行動に民主主義の本質を見出した。

立法院を占拠した学生たちは,占拠20日を越えたあたりで立法院と妥協することを検討し始めた。しかし,その意思決定の際に学生のリーダー・林飛帆がとった行動は単なる多数決ではなかった。

「彼は丸一日かけて,占拠に参加した学生たちの意見を個別に聴いて回ったのである」

最終的に妥協案は受け入れられた。しかし,妥協反対派の学生はこう述べている。

「撤退の方針は個人的には受け入れ難いです。でも,僕の意見を聞いてくれたことを,感謝します。ありがとう」

高橋源一郎はこう述べる:

学生たちがわたしたちに教えてくれたのは,「民主主義とは,意見が通らなかった少数派が,それでも,『ありがとう』ということのできるシステム」だという考え方だった。

これ読んで,政治というのは結論よりもプロセスが大事だということを改めて感じた。何事に対しても「喫緊」「焦眉」「緊急事態」といった決め言葉で即断即決を迫るのは拙速に過ぎる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

朝日新聞「こゝろノート」が届いた件→追加が必要

去る4月20日以来,夏目漱石の「こゝろ」が朝日新聞に100年ぶりに連載されている。そして小生はご丁寧にそれを切り抜いて保存している。

先月半ばに朝日新聞が「こゝろ」の切り抜きを保存できる「こゝろノート」を作ったというので,新聞販売店に問い合わせたところ,昨日1冊届いた。

Kokoronote1

さっそく切り抜きを貼り始めたのだが,たちまち,ページが埋まっていった。

Kokoronote2

これ1冊で44ページだというが,表紙,裏表紙,見返し,扉などが計5頁あるので,ノート部分は実質39ページである。39回で一杯になってしまうじゃないか。「こゝろ」の連載回数は110回になるはずなので,あと2冊は必要である。頼めば追加の分をくれるのだろうか?

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »