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2014.06.18

【幻の統計学者・小島勝治】生誕100年,没後70年

今から数十年前のことだが,30年に満たない生涯の中で,民俗学,統計学,社会事業論の分野で莫大な量の研究成果を残した在野の研究者がいた。小島勝治(こじま・かつじ)という。

小島勝治は1914(大正3)年10月19日に大阪で生まれ,1944(昭和19)年7月28日に中国で戦病死した。今年は生誕100年,没後70年にあたる。

小島勝治は大阪府布施市(後の東大阪市)の産業課統計係,その後,大阪市役所の社会事業団体・財団法人弘済会の庶務課統計係に勤めながら,全くの在野の研究者として,前述の民俗学,統計学,社会事業論の研究に勤しんでいた。

先日紹介した佐野眞一『旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三』にも,わずか1か所だが,小島勝治について触れた個所がある。

「役所につとめながら在野の統計文化史学者として数多くの研究論文を発表しながら,三十歳で戦病死した小島勝治」(佐野眞一『旅する巨人』,78頁)

小島勝治は宮本常一が属した大阪民俗談話会に属していて,「あんこうとなかま」(大阪民俗談話会会報,第9号,1940年9月6日)というような語源についての論考などを発表していた。

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)
佐野 眞一

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この他,統計分野の研究成果は『浪華の鏡』(大阪府統計協会発行,昭和11~18年)で,社会事業の研究成果は小島が自ら編集した『社会事業論叢』(財団法人弘済会発行,昭和15年2~9 月の隔月刊)で発表していた。

佛教大学社会福祉学研究室がまとめた「資料・小島勝治文献目録」(『佛教大学社会学部論叢』第3号,1969年9月)によれば,昭和6年(18歳)から昭和15年(27歳)までに386種の論文,随筆,講演などを残している。


  ◆   ◆   ◆


小島の業績は戦後しばらく埋もれていたのだが,1960年代に,小島の友人だった丸山博によって統計学の業績の再評価が始まった。

また1972年には遺稿の一つ,『日本統計文化史序説』が未来社から刊行され,さらにNHKのドキュメンタリー番組「幻の統計学者―小島勝治―」が放映されたことにより,統計学以外の分野からも注目を浴びるようになった。

日本統計文化史序説 (1972年)日本統計文化史序説 (1972年)
小島 勝治

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帯(裏)にはこのような賛辞が寄せられている:

●本物の仕事 甲南大学教授 杉原四郎

小島勝治の仕事が本物であることは,彼がその中心的なメンバーであった統計談話会の活動もしめすように,アカデミズムからはなれた市井の研究家にあり勝ちの偏執や独善が全然なく,同好の友人と分担して統計学の基礎文献を一つ一つ消化しながら,学会の成果を着実に,能率的に吸収しようとする研究方法からもわかるであろう。日本統計文化史についての研究は,日本文化と庶民生活とに対する彼独特の情熱が同時に燃焼しているところに大きな意義があるのだが,それが学問の大道をあゆもうとする謙虚な,真摯な研究方法によっているからこそ,召集間際に書きのこしたその最終成果にもなお研究ノート的性格がのこっているにもかかわらず,30年後の学界の吟味に十分堪えうるものをもっているのだと私は思う。

未来社からはさらに『統計文化論集』Ⅰ~Ⅳ (1981年-1985年)の4冊が刊行されている。


さて,なぜ今頃,小島勝治を取り上げるのかというと,佐野眞一『旅する巨人』の一文に興趣を覚えた,さらに言えば「在野」の一語に魅かれた小生が,生誕100年・没後70年を機に第3次小島勝治ブームを興そうと企んでいるからである。

今のところ,少しずつ著作を読んでいるところだが,小島勝治に関する論考はインターネット上で入手できるものもある。例えば以下の4編。

  • 橋本勝:情報文化論の萌芽 : 小島勝治のめざしたもの,情報文化学会全国大会講演予稿集 2 (1994-10-15), pp. 54 - 56
  • 櫻田忠衛:京都大学経済学部所蔵の小島勝治旧蔵書 ―幻の「小島勝治文庫」―,経済論叢別冊 調査と研究 (2001-10), 第22巻,pp. 67-74
  • 京都大学経済学部所蔵小島勝治旧蔵書目録,経済論叢別冊 調査と研究 (2001-10), 第22巻,pp. 75-85
  • 高橋伸一:統計学者小島勝治の残された課題,佛教大学社会学部論集第52号(2011年3月),pp. 85 - 98

興味ある方はGoogle先生で検索して読んでいただきたく。

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