梅棹忠夫「未知への探究(desiderium incogniti),これが一番大事なことなんや」
消費税増税前にいくつかの本をあわてて買ったわけである。その顛末は「増税前,最後のあがき」という記事に書いた。
その際買った本の一つが山本紀夫『梅棹忠夫―「知の探検家」の思想と生涯』(中公新書)だが,出張の合間に読んで,先日読み終えた。著者は梅棹忠夫の弟子とも言うべき人で,梅棹忠夫の影響で生物学から民族学に転向してしまった経緯を持つ。
この本は梅棹忠夫に対する敬意と驚異に満ちあふれた伝記であり,読んでいて楽しく,とくに梅棹忠夫が華々しく活躍する前,少年・青年時代をよく描いていて面白かった。
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梅棹忠夫はあれこれ研究テーマを変えるので,移り気なように見えるのだが,実は研究活動の根底には一つの一貫した軸があることがこの本を読むとわかる。それは「"desiderium incogniti" (未知への探究)」の精神である。誰も行っていないところ,誰も研究していないことを求め続けることが梅棹忠夫の研究活動の核となっている。それを踏まえ,著者・山本紀夫は梅棹忠夫を「終生探検家」と呼ぶ。
梅棹忠夫の人生は(誰もがそうだが),必ずしも順風満帆とはいかなかった。敗戦により研究フィールドであるモンゴルから撤退せざるを得なかったり,フィールドを国内の農村に切り替えて間もなく結核で二年の療養をせざるをえなかったり・・・。人生最大の苦難としては60代半ばに失明したことが挙げられる。
そういった障害に直面しても,さらなる闘志を燃やし,あらたな研究フィールドを開拓していったあたり,やはり「終生探検家」と呼ぶにふさわしい。
ちなみに本記事のタイトルは『梅棹忠夫―「知の探検家」の思想と生涯』に引用されている梅棹自身の発言である。
梅棹忠夫が亡くなったとき,本ブログでは著書をいろいろ紹介した。参考までに。
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コメント
タイトル、良い言葉ですね。関西弁というのがまた良い。
私たちが、書かれた文章などでしか触れられない人柄を、そのままに伝えてくれるように思います。
湯川秀樹についても、子供のころ伝記で読んだ天才学者のイメージを持っていましたが、本人は関西弁バリバリのおもしろいおっさんだったと聞いて、そんな人のやる平和運動なら良いかもなと思ったことがあります。
ところで梅棹氏も湯川氏も京都弁になるのでしょうかね?私、京都大阪神戸の言葉の違いを判別する能力はありません…
投稿: 拾伍谷 | 2014.05.25 01:16